世界で最も高額で落札されたルビーは2023年のニューヨークのサザビーズで「3,480万ドル(約50億円)」という記録を樹立した「エストレラ・デ・フーラ(Estrela de Fura)」です。
しかし、その8年前にスイス・ジュネーブで注目を集めた「サンライズルビー(Sunrise Ruby)」も、今なお「伝説的なルビー」として語り継がれています。
天然無処理でありながら、燃えるようなピジョンブラッドの色調と完璧な透明度を併せ持ち、落札額は2,825万スイスフラン(約36億円)当時としては世界最高値を記録しました。
私はそのサンライズルビーが落札されたオークション会場に実際に立ち会い、この特別な宝石を自らの手で確認する機会を得ました。
この記事では、その実体験をもとに「サンライズルビーがなぜそこまで価値づけられたのか」、そして「同じルビーでも価格が大きく異なる理由」について詳しく解説していきます。
モリスは、2017年にニューヨークのサザビーズへ出品実績があり、日本発ブランドとして世界市場で評価を受けています。本物の天然無処理のミャンマー産ルビーに興味がある方は、ぜひ一度店舗へ足を瘢痕でみてください。(来店予約はこちら)
最高記録サンライズルビーとは?(オークションの落札価格も解説)

宝石の世界では、「オークションでいくらで落札されたか」という実績が、その宝石の象徴的な価値を決定づけます。中でもルビーは、ダイヤモンドを除く有色宝石の中で最も高額で取引される存在です。
ここでは、世界的な注目を集めた「サンライズルビー」と、2023年にその記録を塗り替えた「エストレラ・デ・フーラ」の2つの伝説的なルビーについて、最新のオークション情報とともに紹介します。
サンライズルビー(Sunrise Ruby)の記録
2015年5月13日、スイス・ジュネーブで開催されたサザビーズ(Sotheby’s)のオークションにおいて、25.59カラットの天然無処理ミャンマー産ルビーが「2,825万スイスフラン(当時約36億円)」という驚異的な価格で落札されました。
なお、2025年現在の為替レートで換算すると、およそ48億円相当にのぼります。このルビーは、深く鮮やかな赤色をもち、高い透明度が特徴で、もちろん最高品質のピジョンブラッドです。
スイスの権威ある「Gubelin Gem Lab」と「SSEF」などの鑑別機関からも高い評価を受け、まさに「世界で最も美しいルビー」と称されました。
宝石史に残る名品として、今もなおサンライズルビーは「最高級ルビーの象徴」として語り継がれています。
ピジョンブラッドについて知りたい方は、以下の記事を参考にしてみてください。
エストレラ・デ・フーラ(Estrela de Fura)の新記録
それから8年後の2023年6月8日、ニューヨークで開催されたサザビーズ「Magnificent Jewels」オークションでは、55.22カラットのルビー「エストレラ・デ・フーラ(Estrela de Fura)」が出品されました。
落札価格は3,480万米ドル(約50億円超)で、サンライズルビーの記録を超え、ルビーとして史上最高額を更新しました。
このルビーはモザンビーク・モンテプエズ鉱山で発見された原石を丁寧に研磨したもので、鮮やかな深い赤色を持つことから「奇跡の赤」とも称されています。
エストレラ・デ・フーラにもスイスの「Gubelin Gem Lab」と「SSEF」いった世界的鑑別機関のレポートが付属し、その品質の確かさも記録的な価格を支えた要因となりました。
二つのルビーが示すもの
サンライズルビーとエストレラ・デ・フーラは、産地もサイズも異なる二つのルビーに共通しているのは、「天然無処理」「優れた透明度」「理想的な深い赤色をもつ最高品質のピジョンブラッド」という三つの要素です。
これらは、ルビーの価値を決定づける最も重要な要素であり、どれか一つでも欠けると価格は大きく下がることになります。つまり、世界最高峰のルビーとは、単に大きく美しいだけでなく、「自然が生み出した奇跡の条件がすべて揃った宝石」なのです。
サンライズルビーの特徴(実際に手に取ってみて感じたこと)

実際に手に持ってみたサンライズルビー
サンライズルビーを実際に手に取って拝見してみたところ、ミャンマー産ルビーの中でも最大級の品質(GQジェムクオリティ)で、その圧倒的な存在感から、ルビーの本質を改めて感じました。
ここでは、実際にサンライズルビーを見て感じた印象と、その価値の背景についてお伝えします。
ルビーの品質判定については、以下の記事を参考にしてみてください。
世界一高いルビーを実際に手に取ってみて感じたこと
サンライズルビーを実際に手に取ってみると、青みをほとんど感じさせない深紅の色調で、大きさに対して驚くほどの透明度と彩度を持つ、まさに完璧な結晶でした。
内部には、モゴック産特有の絹のような「シルクインクルージョン」が確認でき、これが柔らかな輝きを演出しています。研磨はクッション型ミックスドカットで、脇石には2ct超のダイヤモンドがセットされたプラチナの指輪でした。クラシカルでありながら圧倒的な存在感です。
実際にオークション落札の時にハンマーを振った担当者から聞いたところ、元々はロイヤルファミリーなどの重要な方の持ち物であったそうで、その後カルティエの宝石コレクションとなったそうです。
最後に「あなたは、このルビーはいくらで落札されると思う?」とサザビーズの会長に聞かれました。「1000万ドルでしょうか」と答えた私に、「それがスタート価格だよ」と笑ったサザビーズ会長の言葉が、今でも印象に残っています。
実際のオークションの様子
実際のオークション(サザビーズ)会場はスイス・ジュネーブ、レマン湖畔にあり、ハプスブルグ家の皇后エリザベートが最後に宿泊していたホテルのホールでした。(※現在は、近隣の違う場所に会場は移っています)
サザビーズには、「Magnificent Jewels(マグニフィセント ジュエルズ)」という区分けがあり、ロイヤルファミリーの持っていたものを含めたハイエンドジュエリーのオークションの品として扱われています。今回落札されたサンライズルビーはMagnificent Jewelsで出品されました。
サンライズルビー(25.59ctのミャンマー産ルビー)を巡り、会場ではアラブの富豪と電話参加者の一騎打ちが行われ、激しい応札が40分以上続き、最終的にハンマーが下りた瞬間、会場から拍手が湧き上がりました。
落札者は公表されていませんが、その瞬間に感じた周囲を巻き込む「特別なルビーの力」は今でも忘れられません。
サンライズルビーの価値はどのようについたのか?
ルビーがオークションに出品される場合、出品依頼から始まり、オークション担当者によって出品される商品の品質や来歴などが調査されます。その後、出品される商品のスタート価格と落札予想価格を提示されます。
今回のサンライズルビーには、スイスの権威ある「Gubelin Gem Lab」と「SSEF」の鑑別書(分析結果報告書)が付いていました。
加えてロイヤルファミリーが所持していたという記録、品質においては「25.59ctという大きさ」「天然無処理のミャンマー産」などの点からスタート価格は1000万ドルから始まり、予想の価格の2倍以上で落札されました。
今回のように前所有者の名声やブランドも価格が高騰する要素の一つですが、真の価値はルビーそのものの品質です。
そして、今回サンライズルビーの限られた供給量とその価値の理解者が複数いたことから「2825万スイスフラン(当時約36億円)」という世界一高いルビーとなりました。
ルビーに限らず、宝石の価値は常に需要と供給のバランスで決まるということです。
同じような宝石になぜ高いものと安いものがあるのか?
「なぜ同じ名前のルビーなのに、価格に差があるのか?」とよく質問されますが、価格が異なる理由は「宝石の品質が違う」からです。
またよく誤解されがちなのが「ルビーは深い赤が良い」「透明度が一番大切」など部分的な特徴でルビーの品質を判断をしている点です。ルビーは色、透明度、彩度、プロポーション、産地、処理の有無などの複合的にな要素によって品質が決まります。
非加熱やピジョンブラッドというラベルだけではルビーの本質を語れません。さらに、市場価値を左右するのは需要と供給です。希少であることに加え、その価値を理解し欲する人が多いほど価格は高騰します。
今回のオークションに出品されたサンライズルビーは、まさに「希少性が生み出す価値」の極致と言えます。
ルビーの価値を左右する大切な要素

宝石ルビーの価値を決めるのは、希少性だけではありません。その背景には、長い歴史と文化、そして科学的な品質基準があります。
ルビーの価値を大きく左右するのは、次の3つの要素です。
①ルビーの品質
今回サザビーズのオークションに出品されたサンライズルビーは、25ctを超える天然無処理で美しいミャンマー産ルビーです。
宝石品質の中でも最上級の「GQ(ジェムクオリティ)」に分類される、まさに頂点の存在です。このクラスの原石は極めて稀で、ミャンマー・モゴック鉱山でも100年に1個しか見つからないと言われています。
実際、私たちも25年間現地で探索してきましたが、10ctを超えるGQルビーには一度も出会っていません。その「出会えない希少性」こそが、この宝石の価値の根源です。
②ルビーの需要と供給のバランス
価値は「どれだけ希少で、どれほど多くの人に求められているか」で決まります。いくら希少でも、知られていなければ需要は生まれません。一方で、知名度が高くても供給が増えすぎれば、価値は下がります。
その点、ルビーは古くから世界中で愛され続けてきた宝石です。特に天然無処理のミャンマー産ルビーは、市場での流通量が少ないため、その希少性と人気が高額落札の要因となりました。
かつてアメシストが供給過多で価値を失ったように、宝石の価値は常に需給バランスに左右されます。サンライズルビーは、その最も理想的なバランスが成立した稀有な例なのです。
③ルビーの伝統と慣習
ルビーは、古代から「赤の象徴」として人々を魅了してきました。その語源はラテン語の rubeus(赤)から来ています。
紀元前3000年のバビロニアでは、星アンタレスの欠片と信じられ、古代ギリシャでは「火星=軍神マルス」を象徴する石とされました。
旧約聖書や仏教経典にもその名が登場し、阿弥陀如来の頭上を飾る紅玉(ルビー)としても知られています。
人間の目がもっとも敏感に感じる色が「赤」であることも、ルビーが本能的な魅力を放つ理由の一つです。遠赤外線が体を温めるように、赤は生命と情熱の象徴です。
こうした文化的・生理的背景が、ルビーを数千年にわたって「特別な宝石」として君臨させてきました。その頂点に立つのが、サンライズルビーなのです。
オークションの種類と基礎知識

宝石を手放す時に日本では「宝石を手放す=質屋」を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし世界では、宝石をはじめとする高級品の取引においてオークションが標準的な流通手段です。
特に欧米ではオークション文化が生活に深く根付いており、パリの公営オークション「Hotel Drouot(オテル・ドルーオー)」では、家具や絵画、アンティーク、ジュエリーまで、あらゆる品が日々取引されています。フリーマーケットのように、オークションも日常の延長線上にあるのです。
中でもジュエリーは絵画に次ぐ人気カテゴリーです。手に届く価格のものから、資産価値の高い逸品まで、出品される会場の格に応じてラインナップが異なります。
そのオークションも、性質によって大きく以下の2種類に分けられます。
国際オークション
「クリスティーズ(Christie’s)」や「サザビーズ(Sotheby’s)」といった老舗は、200年以上の歴史を誇る世界最高峰の国際オークションです。
ニューヨーク、ロンドン、ジュネーブ、香港など、世界各地で開催され、顧客の多くは国際的な富裕層やコレクターです。展示会(プレビュー)を経て入札される作品は、芸術品・時計・宝石など、いずれも一級品ばかりです。
輸送費や関税などのコストがかかる分、取り扱うのは高額品が中心で、価格帯は500万円以上が主流で、落札額が数億円に達することも珍しくありません。
まさに、サンライズルビーのような世界最高クラスの宝石が登場する舞台です。
ローカルオークション
一方、各国の都市で定期的に開かれるのがローカルオークションです。国際オークションに比べて輸送コストや手数料が低く、出品から落札までのハードルが低いのが特徴です。
価格帯も数万円から数千万円までと幅広く、個人のコレクターや宝石商、ジュエリーデザイナーなど、多様な層が参加しています。
手頃な価格帯ながら、思わぬ逸品に出会えることもあり、まさに宝探しのような魅力があるのがローカルオークションの醍醐味です。
世界の宝石市場では、オークションは「売る」だけでなく「資産としての価値を見極める」場所でもあります。サンライズルビーが高額で落札された背景には、こうした国際的な評価システムの存在があるのです。
サザビーズとクリスティーズとは?(モリスのオークション出品実績)
世界のオークションを語るうえで欠かせないのが、「サザビーズ(Sotheby’s)」と「クリスティーズ(Christie’s)」の2大競売会社です。いずれも200年以上の歴史を持ち、芸術品やジュエリーの国際市場を牽引してきました。
- サザビーズ(Sotheby’s)
世界最古の国際競売会社であり、世界で初めてオンラインオークションを開催した美術品オークションカンパニーでもあります。ロンドンで創業し、現在はニューヨーク・アッパーイーストサイドに本部を構えています。 - クリスティーズ(Christie’s)
1766年、ジェームズ・クリスティーによりロンドンで設立。フランス革命後、ロンドンが美術品取引の中心となった時代に成長を遂げ、「格式と信頼の象徴」として世界中のコレクターから支持を集めています。
以降では、
について解説します。
国際オークション開催地と特徴
世界三大オークションの開催地は、ジュネーブ、ニューヨーク、香港の3都市です。このほかロンドンやパリなどでも行われますが、取扱高ではジュネーブ、ニューヨーク、香港の3都市が圧倒的です。
特にジュエリー分野では、1回のオークションで取扱総額が100億円を超えることも珍しくありません。中でも王室や名家の由来を持つジュエリーは、ジュネーブでの開催が多いのが特徴です。
歴史と由緒を重んじる地域性が、宝石の価値をさらに高めています。
世界で通用するジュエリーブランド
世界で評価されるジュエリーブランドは、実はごく限られています。ここでは、サザビーズやクリスティーズで出品された実績をもつブランドを紹介します。
欧州で知られているブランドは以下のとおりです。
- Cartier(カルティエ)
- BVLGARI(ブルガリ)
- CHAUMET(ショーメ)
- BOUCHERON(ブシュロン)
- Van Cleef & Arpels(ヴァンクリーフ&アーペル)
- GRAFF(グラフ)
米国で知られているブランドは以下のとおりです。
- Tiffany & Co.
- David Webb
- Henry Dunay
- Fred Leighton
日本でサザビーズやクリスティーズへの出品実績があるブランドは以下のとおりです。
- Gimel(ギメル)
- SUWA(スワ)
- MORIS(モリス)
モリスは、2017年にニューヨークのサザビーズへ出品実績があり、日本発ブランドとして世界市場で評価を受けています。
リザーブ価格とは?(モリスがオークションに出品した実績の内容)

オークションの基本を理解するうえで重要なのがリザーブ価格(最低落札価格)です。
リザーブ価格とは、「出品者がこの金額以下では売らない」と決めた最低ラインの金額のことです。この金額に届かない場合は、どれだけ入札があっても「落札されない(=取引不成立)」となります。出品者にとっては損を防ぐ「保険」のような役割を果たしています。
一方で、「スタート価格(開始価格)」は入札が始まる最初の金額を指します。多くの場合、リザーブ価格よりも低く設定されており、ここから複数の入札者によって競り合いが始まり、価格が上昇していきます。
例えば、リザーブ価格が500万円でスタート価格が300万円の場合、入札が500万円に達しなければ落札は成立しません。このように、スタート価格は「競りを盛り上げるための導入価格」で、リザーブ価格は「出品者が譲れない最低価格」という違いがあります。
宝石オークションでは、リザーブ価格を1カラットあたりの価格で割り返すことで、宝石の品質やサイズに対する市場評価の目安を知ることも可能です。
リザーブ価格は宝石が持つ本来の価値が構成要素
リザーブ価格は、工賃やブランド価値をほとんど考慮せず、宝石そのものが持つ純粋な価値を反映します。小売価格のようにマージンが上乗せされないため、より市場実勢に近い価格が示されるのが特徴です。
また、オークション会社はリザーブ価格とともに「見積価格帯」も提示します。これは適正価格の目安であり、専門家による真贋鑑定を経ているため、参加者にとっては安心材料となります。
もちろん、入札競争によって想定を大きく超える価格に跳ね上がることもありますが、それもまたオークションの醍醐味です。
オークションでの実績は残る
オークションで落札された宝石の記録は、すべて公開実績として残ります。これにより、次回出品時の参考価格や市場価値の指標となり、再びオークションに出品することも容易です。
販売手数料はかかるものの、気軽に「売る」「再び買う」を繰り返せるのがオークションの魅力です。落札価格は常に市場の需要と競争によって決まるため、まさに「リアルタイムの価値」が反映される取引と言えます。



