光る宝石ミャンマー産ルビーの蛍光性やUV(紫外線)について

はじめてミャンマー産のルビーの蛍光反応(ルミネッセンス)を見た人は、目の前で起こる幻想的、そして神秘的な現象に驚きの声をあげます。
そして驚きはさめやらないまま「なぜ?どうして?」と理由を知りたくなります。
多くの人々の研究によって解き明かされてる部分といまだ解き明かされていない部分もあります。

この記事ではルビーが光る理由について解説していきます。

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光る宝石ルビー (蛍光性)

酸化アルミニウムという単純な成分を持った鉱物コランダムの中で、美しい赤い色の宝石がルビーと呼ばれます。

ルビーの燃えるような赤い色は、古くから人々の特別な関心を集め、カーバンクル(燃える石炭)と呼ばれていました。その光は闇の中でも失せることがないとされ、光る石としてさまざまな伝説が生まれました。

ミャンマー産ルビーの特別な光

ミャンマー産ルビーの赤色は不純物として1%程度のクロムを含むためです。

ミャンマー産ルビーは、365nmの紫外線にクロムが反応して鮮赤色にまるで電源を入れたように輝きます。

これはFluorescence(フローレッセンス)と呼ばれる性質で、ピジョンブラッドルビーの条件の一つです。

3価のクロムイオンがアクチベータの働きをしています。ルビーの中のクロムイオンは赤外線~可視光線~長波紫外線に至る広い範囲の光を吸収して赤色の蛍光を発します。

通常光で見えるルビーの色は、すでに蛍光色を反映しているということです。

蛍光の明るさは同時に含まれる鉄イオンの影響を受け、その量が増えると輝きが鈍くなるといわれています。同じルビーでもタイ産のものは、蛍光性が少ないのは、鉄分のためです。鉄分が多いと蛍光性を減少させます。

ルビーは最初に合成品がつくられた宝石としても有名です。人工合成ルビーも蛍光するので注意が必要です。

ミャンマー産ルビーの結晶する時の環境

ミャンマー産ルビーが一番高く評価される理由は、結晶する時の環境が「接触変成岩起源」のため、元素クロム(Cr)を多く含む地質地下40㎞の深いところで結晶したからです。

地表に上昇してきたマグマが上層部の堆積岩と接触し、熱と圧力により大理石が形成されるプロセスの中で、ルビーが形成されます。

大理石における鉄の含有量は低いため、形成されたルビーに鉄分が少なく、強い赤色と蛍光性を持つルビーが生まれます。

ルビーの赤色には、クロム(Cr)と鉄(Fe)の割合が関係しますが、鉄分の多い地下20㎞と地殻とクロムの多い地下40㎞ではルビーが結晶する時の環境が違うということです。

クロム(Cr)とアルミニウム(Al)の出会いは地球化学的に奇跡

ミャンマー産ルビーは、クロムとアルミニウムという、一緒に存在し難い元素が奇跡的に偶然出会うことで、ルビーの結晶ができています。

ルビーは微量のクロム(Cr)を含有していますが、この元素はコランダム(化学式:Al2O3)の主元素であるアルミニウム(Al)とは地球化学的に相反する性質を有しています。

アルミニウムは地球の表層部あるいは大陸地殻と呼ばれる陸地を形成する地域に多く存在するのですが、クロムは地球の深部あるいは海洋地殻と呼ばれる海底を形成する地域に分布する傾向にあります。

原産地については、宝石種と同じように、鑑別業者へ分析を依頼することができ、専門的な機器を使った分析が可能です。

ルビーの産地については、専門の宝石研究所、鑑別業者に依頼して分析結果報告書(鑑別書)を取るのが良いでしょう。

ルビーの産地についてはこちらで詳しく解説しています。

鉱物におけるルミネッセンスの仕組み

ここで解説する「光る石」は、科学的な言葉でいうと「ルミネッセンスを放つ鉱物」です。

鉱物は地球上のあらゆる岩石や砂を構成している要素ですが、様々な元素が集まって作り出される結晶は多様で、色や形の組み合わせ、光を透かしたり返したりする様子に面白さがあります。

その中にUVランプ(紫外線ランプ)をあてたり、温めたり、擦ったりすることで光を放つ、性質をもった石があります。

ルミネセンスの定義と用語 蛍光と燐光

物資が外部からエネルギーを受けて励起され、その後受け取ったエネルギーを光(可視光線)として放出する現象を「ルミネッセンス」といいます。

鉱物のルミネッサンスには、2つの種類があります。

  1. 蛍光(フォルオレッセンス):外部からのエネルギーの供給が止まると同時に発光が止まる
  2. 燐光(フォスフォレッセンス):エネルギーが途絶えてもしばらくの間、蛍光が続く

2つの発光の仕組みは異なりますが、鉱物によっては蛍光した後、別の色に燐光するものもあるので区別があまり明確にできない場合もあります。

光る(蛍光性)宝石ルビーの言い伝え

ローマ時代の「博物誌」著プリニウス

現存するもっとも古い宝石に関する著述のひとつは、ローマ時代のプリニウスが記した「博物誌」です。

この著書には、光を貯め、あるいは内部に光を宿すとされているいくつかの石が紹介されています。

カルバンクルス(カーバンクル/紅玉/ルビー)は、あらゆる世紀を通じてもっとも価値の高い宝石のひとつとされてきました。カルバンクルスとは「燃える石炭」の意味で、「焔のように輝く石の中で第一級のものに、その光が火に似ているのでカルバンクルスの名があるが、この石が容易に燃えないことはよく知られていた。そのため【燃えないもの】と呼ぶ人もあった」と記されています。

またさまざまな種類のカルバンクルスを列記した後で「これらの石はすべて太陽の光線がもっとも強く反射する地面に露出するということだ」ともあります。

ルビーの光輝は太陽の火を貯えたものであると信じられてたのでしょう。

ルビーのギリシャ語名「アンスラックス」も同じく「燃える石炭」からきています。

これらの輝きは、日光や天体など外からの光によって現れるのが普通ですが、中には内部に光を貯め、宿し、あるいは自ら光もあると信じられていたようです。

その後も長くヨーロッパ人の間で光る石として信仰を集めました。

古代のカーバンクル(ノアの箱船)

聖書創世記に有名なノアの箱舟があります。邦訳の聖書には登場しないのですが、箱舟には火のように赤い石(カーバンクル)が載せられていた、とユダヤのラビの説話にあります。

この石は素晴らしくよく光り、夜の闇よりも太陽の下でいっそう明るく輝くため。

洪水の間、石の明るさによって昼と夜の区別をつけることができたといいます。

夜よりも昼の方が明るいのは当たり前のようですが、洪水が続いた40日間、太陽も月も一度も顔を出さなかったのですから、この石は実際に光を受けて輝いたのではなく、内部の光で輝き、しかもその輝きは太陽や月の巡りに結びついていたのでしょう。

そのようなルビーの蛍光を起こす性質を偶然に観察した人々はルビーに対して畏敬や信仰の念を生み出し、そして宗教的な荘厳さや権威を表すために利用しました。

中世以降のカーバンクル 「宝石誌」著マルボドス

中世に「宝石誌」という有名な宝石書をなしたマルボドスは、カーバンクルについて「夜の光もその力強い輝きを消すことはできない。それを見る者の名のその火を投げる」と書いています。

中世までのヨーロッパではルビーはかなり珍しく、ほとんどその実態は知られていなかったと指摘されています。実際にルビーを見る機会があったのは一部の特権階級の人々に限られていました。そうした状況だからこそ光る石カーバンクルの伝説を強め、否定するものもいなかったと言われています。

鉱物の蛍光性を見る時に使うUVランプについて

光る石を鑑賞するために使う「UVランプ」は構造的には水銀灯や蛍光灯と同じ電灯です。

ガラス管の内部に低圧の水銀蒸気が封入されていて、通電すると水銀が放電エネルギ―を吸収し、253nm付近の波長光を主成分とする紫外線を発します。

この波長の紫外線を「短波紫外線」、約360nmの波長光を「長波紫外線」と呼びます。

UVランプの多くはこの2種類、あるいはどちらかの紫外線を照射するようにつくられています。

「この記事の主な参考書籍・参考サイト」

  • 「蛍光鉱物&光宝石 ビジュアルガイド」著者:山川倫央/発行:誠文堂新光社
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