世界の宝石の博物館や美術館を紹介

近年日本でも、2022年2月19日~9月19日まで国立科学博物館、名古屋市科学館で開催された特別展、「宝石 地球がうみだすキセキ」で展示されていました。

多くの人が集まり、宝石に興味がある方が多いことがわかりました。

世界の美術館や博物館ではジュエリーや金銀細工は美術の中で非常に大きな地位を占めています。

ここでは、「すぐわかるヨーロッパの宝飾芸術 著者山口遼 発行 東京美術」から引用して欧州の約30館を解説していきます。

Contents

世界の宝石・ジュエリー美術館ガイド

世界の宝石博物館

  • ギリシャ アテネ「国立考古学博物」
  • ギリシャ アテネ「べナキ美術館」
  • イタリア ナポリ「国立考古学博物館」
  • イタリア ローマ 「ヴィラ・ジュリア美術館」
  • ヴァチカン市国 「グレゴリアーニ・エトルスコ美術館」
  • イタリア フィレンツェ「アルジェンティ美術館」
  • イタリア フィレンツェ「モザイク美術館」
  • イタリア ミラノ「ポルディ・ペッツオーリ美術館」
  • スペイン マドリッド「国立考古学博物館」
  • スペイン マドリッド「ラザーロ・ガルディアーノ美術館」
  • ポルトガル リスボン 「グルベンキアン美術館」
  • ポルトガル リスボン「国立古代美術館」
  • ポルトガル ボルト「ソアレス・ドス・レイス美術館」
  • フランス パリ「装飾美術館」
  • フランス パリ「ルーブル美術館」
  • フランス パリ「クリュニー美術館」
  • イギリス ロンドン「大英博物館」
  • イギリス ロンドン「ヴィクトリア・アンド・アルバート美術館」
  • イギリス ロンドン「ウオーレス・コレクション」
  • イギリス ロンドン「ロンドン塔」
  • イギリス オックスフォード「アッシュモリアン美術館」
  • アイルランド ダブリン「アイルランド国立博物館」
  • オーストリア ウィーン「美術史美術館」
  • ドイツ ミュンヘン「レジデンツ美術館」
  • ドイツ ミュンヘン「市立考古学美術館」
  • ドイツ シュトゥッガルト「ヴェルテンベルク美術館」
  • ドイツ フォルツハイム「宝石美術館」
  • ドイツ ベルリン「美術工芸博物館」
  • ドイツ ダーレム「ダーレム民族学博物館」
  • ドイツ ドレスデン「グリーン・ヴォルト」
  • デンマーク コペンハーゲン「ローゼンボー宮殿」
  • スウェーデン ストックホルム「歴史博物館」
  • スウェーデン ストックホルム「スウェーデン王宮」
  • ロシア サンクト・ペテルブルグ「エルミタージュ美術館」
  • ロシア モスクワ「武器庫美術館」
  • トルコ イスタンブール「トプカピ・サライ博物館」

ここからは「すぐわかるヨーロッパの宝飾芸術 著者山口遼 発行 東京美術」から引用して各美術館・博物館の解説をご紹介します。

 ギリシャ アテネ「国立考古学博物」

これは世界屈指の美術館である。ジュエリー関係では、展示物があまりにも古いためか、宝石を使ったものはほとんどなく、大部分が金の細工品だけだが、シュリーマンが発見した金のデスマスク、衣服への縫い付けたと思われるもの、リュトンやカップ類など、古代ギリシャ文明の粋のような作品がごろごろとならぶ。入り口近くにある特別室、ヘレン・スタタドスの部屋には、打ち出しのある円盤の周りにチェーンをつけ、その先にまた円環をつけた、用途不明のジュエリーがある。ともかく、古代のジュエリーを語るなら、ここは必見の美術館である。

ギリシャ アテネ「べナキ美術館」

欧米には大富豪が己の趣味のおもむくままに、勝手に集めまくったものを展示する個人美術館が数多くある。このベキナ美術館もそうしたもののひとつで、元来は木綿の商売で産を成したエジプト人ベキナ一族の屋敷をそのままに美術館に転じたもの。近年、大改装を行い、規模を拡大した。ジュエリー関連の展示物としては、デサリアンの宝物として知られる出土品の一部、さらにはギリシャ各地でつくられてきたジュエリーなどを、山のように展示してある。西欧文化の宗家だけのことはあり、その多種多様さには驚く。

イタリア ナポリ「国立考古学博物館」

この美術館はポンペイを含むイタリア南部の各地から発掘された美術品を主に集めたもので、純粋のジュエリーはほとんどない。ただ、ポンペイなどから出たモザイクと、ナポリの大貴族であったフォルネ―ゼ家がコレクションした見事なカメオ、インタリオのコレクションはあり、見逃せない。戦うアレキサンダー大王や海中の風景などを描いたモザイクは、やがてローマに移転してローマン・モザイクを生み出す歴史を感じさせる。工芸品としては、ブルーガラスの蓋、それにファルネーゼ・ガップと呼ばれる大きなカメオ状の皿がある。ファルネーゼコレクションは、古代カメオやインタリオを集めたもので、内容的には、世界屈指のコレクションだ。

イタリア ローマ 「ヴィラ・ジュリア美術館」

元来は法王ユリウス3世の別荘であったものを、1890年代に美術館に変えたもので、ボルゲーゼ公園から見れば、変哲もない建物だが、近年、大改装を行い、裏側に超モダンな建物が追加された。基本的には、エトルリア人が残した遺品を中心に展示を行っており、展示品の多くは最高のレベルのものだ。有名なテラコッタ製の夫婦の寝棺もここにある。金銀細工や青銅の細工品は、展示のいたる所にあり、エトルリア人がいかにこうした技術の天才であったかがよくわかる。改装後は、2階にカステラ―二室が設けられ、彼のコレクションとそれを写した模作品とが、並べられているのが壮観である。

ヴァチカン市国 「グレゴリアーニ・エトルスコ美術館」

数ある美術館のなかで、最も嫌いな美術館。なぜ宗教者がこれほどに金銀宝石を使うのか、キリスト教で言う「野の百合を見よ」と言うのは、全く偽善に過ぎないとしみじみとわかる。まぁ、それは置くとして、ヴァチカンには数箇所の美術館があるが、最も面白いのは、ムゼオ・グレゴリアーノ・エトルスコと呼ばれるエトルリア美術を中心としたもの。そのほかに、大聖堂左手の下の方角にある宝物室(法王などの冠が展示されている)やシスティーナ礼拝堂を出た通路の壁面に並ぶ宗教者用の金銀細工品など、見るべきものは山のようにある。

イタリア フィレンツェ「アルジェンティ美術館」

これは小さな美術館で、小さな部屋までいれても2階全部で25室しかない。しかし、その内容、特に金銀宝石細工のコレクションとしては、欧州でも屈指の美術館である。歴代のメディチ家の人々が集めたコレクションを基にしており、内容的には見事なもの。1階の7番の部屋に集められたクリスタルと半貴石の壺たち、特にラピスラズリを彫った白い七宝の鳥の注ぎ口のついた壺の美しさ、2階の14番の部屋の集められたカメオ、特にコジモ1世のカメオと呼ばれる家族が向き合った巨大なカメオ、それと15番の宝石室にあるバロック真珠を使った置物類の多さと多様さ、どれをとっても宝石好きならばしびれる内容である。

イタリア フィレンツェ「モザイク美術館」

メディチ家の庇護の下、16世紀末頃からフィレンツェで始まった、半貴石類を使ってのモザイク工芸の歴史や技術などを展示する小さな美術館。小さなガイドブックなら出ていないから要注意。フィレンツェ市内の業者の組合いが作り保持しているものらしい。モザイクは、ジュエリーの素材であると考えているいるが、この美術館を見ると、それは建築素材でもあり家具の素材としても発達したものであることがわかる。展示されているテーブル、箱の素材、あるいはパネルとして作られたものを見ると、その技術の深さには感動する。ほかに、モザイクを作るための石の板の山には、誰でも驚くだろう。イタリア職人の凄みが、つくづくわかる。

イタリア ミラノ「ポルディ・ペッツオーリ美術館」

これは19世紀ミラノの富豪であり貴族でもあったジャン・ジャコモ・ポルディ・ペッツォーリの私邸を美術館に改造した私的な美術館である。部屋数も20ちょっとで、ジュエリーは2階の中央にあるジュエリー室に展示されている。古代のエトルリアからギリシャ、ローマを経て、ルネッサンス、19世紀のイタリアと幅が広いが、数量的にはさして多くはない。見事な指輪のコレクションがある。

スペイン マドリッド「国立考古学博物館」

スペイン各地で発見された考古学上の遺品を展示した美術館で、地上2階、地下1階とかなり大きい。見どころは、地下に並ぶ古代の金細工品と1階にあるトレドから発掘された東ゴート族の王たちの王冠であろう。現在は王冠が6個、十字架が4個、吊り下げて展示されており、民族異動期のジュエリーとしては、出色のものである。展示室20にあるエルチェの女性像と題するライムストンの彫刻は、巨大な耳飾りを含む多くのジュエリーを着けた女性像としては、画期的なものである。地下にある古代からの金製品の数々には、数量的にも内容的にも、実に見事なもので、どうしてこの美術館がもう少し有名にならないのか不思議である。

スペイン マドリッド「ラザーロ・ガルディアーノ美術館」

これは19世紀末から20世紀初頭に活躍したスペイン人のホセ・ラザーロ・ガルディアーノ個人が収集した美術品、絵画、図書などを集めた個人美術館でもあったが、最近、国家の管理に移転され、内装も一新して新しく開館した美術館である。3階建てで、ジュエリーはすべて1階にある。展示品は若干の古代物を除いて、スペイン各地で作られたものを中心に、イタリア、フランスなどのものが加わる。当然のこととして、カトリックを中心とするキリスト教色の強い作品が主であるが、当主の家族が使ったベル・エポック期のプラチナ作品も含まれる。展示は膨大な数で、デザインごとにまとめられ、無造作に並んでいるので、ご注意である。カトリック系のジュエリーでは、最大ではなかろうか。

ポルトガル リスボン 「グルベンキアン美術館」

アルメニア生まれの石油商人であったグルベンキアン氏が私財を投じて作った個人美術館。最近、完全に内装を変えて登場したが、正直、前よりも悪い。役所仕事の典型であろう。我々に興味があるルネ・ラリックのコレクションは、世界最大級だが、地下展示室から1階に上がったのはよいが、展示室も小さくなり、展示物の数も大幅に減った。1階の16室17室がそれで、これではラリック泣こうと言うものだ。まぁ、それでもコレクションは素晴らしく、ジュエリー好きにとっては、必見の美術館であることは間違いない。

ポルトガル リスボン「国立古代美術館」

主に古代からのポルトガルの工芸、絵画を集めた美術館は、市の中心部から車で10分程度の所にある。ジュエリーは2階の30番室に集中しており、その周りの6から29番までの部屋には、宗教用品などの金属工芸が展示されている。展示されているのは、15~19世紀のポルトガル製のジュエリーが主で、金や銀を用いた台座に古いカットのダイヤモンドを埋めた、きわめて低い作りのセヴィ二ェ・タイプのブローチなどが主で、この手のジュエリーコレクションとしては、最大のもの。宗教用品の部屋にも、金属工芸としては見逃せない優品が多い。

ポルトガル ボルト「ソアレス・ドス・レイス美術館」

古代ポルトにあるこの美術館は、元の宮殿を改装したもので、小さいながらポルトの誇る文物を展示する。ジュエリー2階の1室に集中しており、大別して、ローマ以前のものと、17世紀以降の西欧の一国としてのポルトガル王国で作られたものに分かれる。エナメルを多用し、真珠を用いたジュエリーは、東洋との関連をうかがわせる。なかでも、特に優れているのは、18世紀の後半にポルトガルで作られたストマッカー・ブローチで、非常に大きいが、中央部で縦方向にくの字状に折れている作りで、ストマッカ―としては、新品をみないものだ。ジュエリー以外では、桃山時代の日本から渡来した南蛮図屏風が2双あるし、螺鈿を施した日本家具も展示されている。

フランス パリ「装飾美術館」

パリのルーブル宮殿の建物には、ルーブル美術館のほかに、装飾美術館と服飾美術館とが入っている。装飾美術館は近年、大改装が終了し、ジュエリーの展示も充実した。中世17、18世紀のものもあるが、この美術館の最大の見せ場は、1900年前後からのパリのデザイナーたちが作ったジュエリー。ヴェヴェール一族が寄贈したジュエリーが中心だが、アール・デコの時代まで、極めつけの優品が並ぶ。ジュエリーのギャラリーは、大階段左右に移動したので注意。

フランス パリ「ルーブル美術館」

大英博物館と並んで、最も可愛げのない美術館である。ジュエリーあるいは金属工芸に関しては、大きさの割合に非常に少ないが、それでもアポロンの間を中心として、ルイ王朝の残りのジュエリーを見ることができる。ダイヤモンドのレジャンをはじめとして、真珠の王冠などが展示されている。このほかにも、メソポタミアやエジプト、エトルリアなどのセクションごとに、関連するジュエリーがあるが、あまり中心扱いではない。ほかにも、カステラ―二のコレクションなどをナポレオン3世が買っているのだが、未だに展示されていない。

フランス パリ「クリュニー美術館」

中世の教会をそのまま美術館に作り替えたもので、中世美術の専門美術館としては世界一だろう。協会建築の飾り物から、タピストリー、木彫など中世美術がこれでもかと並ぶ。まあ、神様だらけで、日本人にはいささか退屈でもあるが、祭壇関連の金工、装身具、十字架、聖遺物入れなど、見るべきものはジュエリー関係でも多い。特にユニークなのは、アンセーニュと呼ばれる聖地巡記念のバッジともいうべき、衣服や帽子に縫い付けた細工品で、金銀のものもあるが、青銅あるいは鉄製の可憐なものが多く、中世の庶民の可憐さがうかがえるものは必見。ほかにも、有名な一角獣のタピストリーがある。

イギリス ロンドン「大英博物館」

世界の博物館の総本家のようなもの、ありとあらゆる所にジュエリーがあるので大変。まあ、それでも中心は2階の41室から47室まで、特にロスチャイルドが寄贈したルネサンス系のジュエリーと、近年、大改装してハル・グランディ・コレクションのほとんどを展示46、47室が見もの。ただし、2メートル以上もある高いところにまで展示品が並んでいるので、小さな望遠鏡など持参されることをお勧めする。ともかく、19世紀のジュエリーをカテゴリー別に展示してあるのは、質、量ともに最高。これ以外は、それぞれの文明ごとに、ジュエリーが展示されているので、全部見るには、まる1日が必要。

イギリス ロンドン「ヴィクトリア・アンド・アルバート美術館」

大英博物館がふどちらかと言えば考古学上の発掘品を中心に展示されているものに比べて、この美術館は、工芸品それも発掘ではなく、伝世の工芸品を世界中から集めて展示したものと言える。西洋のみならず、東洋の膨大な文物が展示されている。ジュエリーの展示では、2階の91室~93室、それにコスチューム・ジュエリーの102室が中心だが、最近、大改装には取りかかったので、どうなっているのか事前に調べた方がよいだろう。1階のインド室にも、インドから掻っ払ってきた、インドのジュエリーが揃っている。また3階の65~69室に並ぶ銀器は、最高のものと言えるだろう。

イギリス ロンドン「ウオーレス・コレクション」

ロンドンの目抜き街オックスフォード街からちょっと入った所に個人の邸宅を改装した美術館。ウォーレス卿の未亡人が1897年に寄贈し、1900年に開館した。2階はフランスやイギリスン絵画が主だが、1階は工芸品、武具などが陳列されており、特にミニアチュールのコレクションは凄い。ケースの上に、革製のシートが日よけに掛かっているからすぐわかる。それ以外にも、象牙のピクエなどの変わったジュエリーが展示されているから要注意である。武具の類も、一見に値するコレクションである。

イギリス ロンドン「ロンドン塔」

これは独立した美術館ではない。ロンドン塔のなかの、Jewel Houseと呼ばれる建物の地下にある、英国王室歴代の王が使った王冠類や、現在も使われている戴冠式用の装飾品の展示場である。だから、王室が正式の用があって使う場合には、展示物は持ち出される。最近、王冠類の展示が変わり、ベルトコンベアに乗って運ばれてしまうので、じっくり見るにはコンベアの後ろの台に乗る必要がある。しっかり観察したい人には、小さな望遠鏡持参をお勧めする。王冠、笏、オーブ、ガウンなど、絢爛豪華な品物が並ぶが、可愛げは全くない。インドなどの過去の植民地から詐欺同然にまき上げたものが中心で、まぁ、巨大ダイヤモンドを見るだけと思ったほうがいいだろう。

イギリス オックスフォード「アッシュモリアン美術館」

これはオックスフォード大学付属の美術館で、卒業生たちからの寄贈品を中心に作られたもの。そのためか、展示がやや雑念としており、詰め込みすぎなのはいたしかない。ジュエリーでは中世室に、かの有名なアルフレッド・ジュエルがあるほかに、2階にはコンテント一族が寄贈したカメオの大コレクションがあり、そのほかにも、やたらと金属製品が目に付く。サイズが小さい割には見るものの多い美術館で、付属の本屋も質が高い。

アイルランド ダブリン「アイルランド国立博物館」

これはアイルランドの先住民であるケルト人の遺物を中心に構成した美術館で、実に多くの金属工芸の遺物が残る。特にユニークなのは、ルヌラエと呼ばれる三日月型の細工品、それに展示にはドレス・ファスナーと書かれているが用途不明のラッパを繋ぎ合わせたような細工品など、金銀、ブロンズと実に多彩である。また、ケルトがキリスト教化されてからから以後の、不完全円のブローチと呼ばれる円形のブローチで、ピン円環上動く奇抜なブローチも多く展示されている。特に、タラのブローチは必見。

オーストリア ウィーン「美術史美術館」

世界中で最も上品な美術館とは、これであろう。展示物は掻っ払ってきたのではなく、自分で買ったものが中心。宝石好きにとってたまらないのは、別塔になっているシャッツカマーと呼ばれる小さな建物で、全館、これ金銀宝石の展示。最も凄みがあるのは、2000カラット以上もあるエメラルドの原石をくり抜いて作った壺、アメシスト製のナスビ型ペンダントなどの作品群。本館の方も全部見る気なら1日ではすまない。1階の左手、中世からバロック時代に及ぶカメオやその他の石の作品には仰天する。盗まれたチェリーニ作のサリエラもここにあった。

ドイツ ミュンヘン「レジデンツ美術館」

ババリア王国のウイッテルスバッハ家の宮殿を博物館に変えたものだが、入り口から直進が宝物館、左手が宮殿跡、できれば両方を見ることをお勧めする。宝物館の入り口近くに、巨大な白馬にまたがった聖ジョージが竜退治する像がある。七宝、ダイヤ、色石に埋まった大変なもの。さらに7個もある王冠類が展示されており、たかがババリアという小国でこれだけの贅沢とは、と思わず唸る。宝石のファセット・カットが始まった頃のさまざまな石を使ったネックレス、小さいながら、見応えのある博物館と言えよう。王宮の方にも、宗教用品を始めとして、見るものは多い。

ドイツ ミュンヘン「市立考古学美術館」

正式名をアンティーク・コレクションという美術館で、ババリア王ルードウィッヒ1世がコレクションしたギリシャ、ローマの遺物を収蔵。宝石好きにとって大事なのは地下のみ。ほとんどの部屋には、古代の金細工品が展示されている。特に見事なのは、エトルリア出土の粒金細工のイヤリングで、粒の小ささ0.2㎜という細工には驚嘆するほかはない。同じエトルリアのバスケット・イヤリングも、ここが一番揃っている。

ドイツ シュトゥッガルト「ヴェルテンベルク美術館」

このシュトゥットガルトを中心とする地域は、ドイツが統一される前はヴェルテンベルクと呼ばれた。この小さな美術館は、4階建ての回廊を持った建物だが、展示されている主なものは、ヴェルテンベルク王家が使ったガラスやいいの彫り物で、そのほかに宝石をつけた武器、さらには王様たちが使った王冠がある。白眉は高さ22センチのガラスのグラスで、宝石と七宝を使い、二重の飾り蓋がついた容器である。この程度の王国でも、ここに展示されている実用具を使っていたことがわかり、欧州貴族社会のレベルが実感できる。

ドイツ フォルツハイム「宝石美術館」

ドイツの宝石の街、フォルツハイムにある同市の業界を挙げて作り上げた見事な美術館。それほど巨大な美術館ではなく、市の図書館などと同居しているものだが、2階建て、1階から2階にかけてほぼ時系列に収集品が展示されている。業界からの寄贈品も多く、展示品の多くはほぼ最高水準のものが多い。この美術館は、古代からのものを展示するだけでなく、多くの現代作家展や、企画展なども開催しており、特にモダン・ジュエリーの展示会は優れたものが多い。展示会ごとにカタログ類を出版することも多く、キオスクには珍しい図録類が並ぶ。ジュエリー愛好家ならば必見の美術館である。場所はシュトゥットガルトとカールすルーエの間。

ドイツ ベルリン「美術工芸博物館」

ティアガルテン街にある修復なった巨大な日本大使館を右手にみながら進むと、四角ばったモダンな建物が見える。これがドイツの美術工芸を集めた博物館で、主にホーエンツォレルン王家のコレクションを収蔵したもの。特に多いのが金銀細工を使った宗教用品や実用具であり、入り口正面にあるハンドバック型の聖遺物入れや、宝石細工を表紙につけた巨大な本など、純粋なジュエリーとは言えないが、楽しい。ベルリン・アイアン・ジュエリーも、当然のことながら、各所に展示してある。ジュエリーだけを特別扱いするのではなく、時代の流れのなかの工芸のひとつとして、淡々と扱われているのが、むしろ楽しい。

ドイツ ダーレム「ダーレム民族学博物館」

ベルリンの郊外、車で15分ほどの町ダーレムの真ん中にある巨大な博物館。入り口はひとつだが、上下左右に内容別に分かれる。宝石好きならば、右手に直進すると、中南米の彫刻類が展示された部屋に入るが、そのまま直進すると、黄金の間(GOLDKAMMAR)に到達する。ここがこの博物館の目玉で、メキシコからエクアドルあたりまでの諸国で出土した金銀細工品や像などを展示したもの。これほどの量のプレコロンビアの黄金は、欧州ではないのではなかろうか。白眉は、プラチナ製の仮面で、所々に金が混じる。打ち出しで自然の塊を成形したもの。最古のプラチナ製ジュエリーとも言える。

ドイツ ドレスデン「グリーン・ヴォルト」

グリーン・ヴォルト、緑のアーチ天井、という名前は目下のところ正確ではない。それがあった宮殿は1945年に戦争で焼け、今は仮住まいだが、この美術館は工芸を語る者には必見、近くの絵画と共に、欧州屈指のもの。ザクセン王国の金銀細工師であったディングリンガーの名作のほかに、緑のダイヤモンドやエメラルドを抱いて立つ黒人像、真珠を集めてゴルゴダの丘を作った置物など、ジュエリー好きならば、1日いても飽きないだろう。展示が気楽なだけに、見落としのなように注意がいる。

デンマーク コペンハーゲン「ローゼンボー宮殿」

これは元は王宮のひとつであったが、19世紀半ばから使われなくなり、美術館となったもの。展示は大別して2つに分かれる。地上階の部分は、かつての王宮の内部をそのままに見せるもので、最上階の細長い部屋にある王座の前の銀製のライオン像が素晴らしい。宝石などは地下室に展示されている。クリスチャン4世の王冠が見事で、王様の持つべき美徳を、多くの七宝の人物像で描くという珍しい作り。デンマークという小国のイメージからは、驚くほどの内容のものが展示されている。

スウェーデン ストックホルム「歴史博物館」

これは文字通りスウェーデンの歴史を展示した博物館だが、我々に興味があるのは地下室で、円形の構成になった部屋だけである。展示のウィンドウは壁面と円形の室内の内側とにあり、順番に見てゆくと元に戻る。全体に3000点の金銀細工が展示されており、金は50キロ、銀は250キロに及ぶ。これだけの金がどうしてスウェーデンにあるのかは、スウェーデン国内で発見されたロマは毛皮を得るために金貨を送りだし、スウェーデン人(ヴァイキングと言ってもいい)はそれを溶かしてジュエリーを作った。白眉は、オーレボリィのネックレスと呼ばれる金製の首飾りだが、それ以外の金細工も。呆れるほどに見事である。

スウェーデン ストックホルム「スウェーデン王宮」

王宮に向かって右手に下る坂の途中に入口がある。スウェーデン王室歴代の王様たちが使ったジュエリー、王冠などを展示した、世界でも最小の美術館。しかし、ガラス越しではあるが、こうした王冠類を10センチくらいまで近づけて見られるので、その意味では珍しい美術館である。特に古いダイヤモンドのカットなどが、目の当たりに見られるのは嬉しい。

ロシア サンクト・ペテルブルグ「エルミタージュ美術館」

エルミタージュとは隠れ家のこと、この美術館は文字通り隠れ家でもある。見たいものが隠れているのだ。世界中の美術館で、最も不可思議、ガイドブックもまともなものなし、見たいと思うものを完全にみたことはない。みなければならないものの筆頭は、女帝エカテリーナが始めたカメオ・インタリオの大コレクション、スキタイの金細工品、ギリシャの金製品等、ジュエリー関連の分野だけでも、呆れるほどにあるが、それが何処にあるのかは、実際に行ってから調べてほしい。

ロシア モスクワ「武器庫美術館」

クレムリンのボロヴィキイ門から入ってすぐ左手に見えるのが武器庫美術館である。この美術館の特徴は、工芸品だけの美術館であることと(絵画、彫刻は原始的にない)その中で異様なまでに金属工芸が多いことで、ちょっと世界の美術館のなかでも類をみない。構造はシンプルで、2階建て、1階には1から5までの部屋、2階は6から9までの部屋があるのみ。見ものの第一はファベルジェ、これは2室の20番のショーケースに、ロマノフ王家の古くからの王冠類は、2階の7室のショーケース50番に鎮座している。そもそもこの2室のショウケース全体が、金銀細工品で埋もれており、これだけで疲れてしまう。

トルコ イスタンブール「トプカピ・サライ博物館」

オスマン・トルコ歴代のスルタンの居城を博物館に変えたもの。だから博物館の反対側には、ハーレムの遺跡が残る。宝石関連では、111番号がついた部屋から始まる5室にほぼまとまっている。この王朝は、最後のコトにスルタン数名、特にアブダル・ハミト2世というスルタンが、歴代の宝物を持ち出して西欧で売却したために、多くは失われたが、それでも、スルタンの居所を示すエメラルドの吊り下げ具、エメラルドを埋め込んだ短剣、カシクチと呼ばれるダイヤモンドなど、まだ見るべきものがたくさんある。西欧のものとは異なるべきジュエリーの世界をかいま見るにはよい美術館である。

まとめ

この記事では「すぐわかるヨーロッパの宝飾芸術 著者山口遼 発行 東京美術」から引用して欧州の約30館を解説してきました。海外に旅行した際、買い物と食べ物の記録と共に最高な宝石との出会いを計画する際に参考にしてください。

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