「ルビーの結晶」というと、何をイメージしますか?
ルビーは人類が登場するより以前に壮大な地球活動によって生み出された宝物です。
地球の内部のマグマはいろんな鉱物が溶け込んでいますが、これが冷却して行く過程で同種の鉱物が集まって来て成長し結晶を作り出します。
この記事ではルビーの結晶について、また地球が結晶を生み出す仕組みについて解説します。
ミャンマー産ルビーが結晶になるまで
地球の活動と生命の痕跡が生んだ奇跡の宝石がミャンマー産ルビー
ミャンマー産ルビーが生まれるにはいくつもの奇跡的な条件が重なってできています。
地球の活動と生命の痕跡が生んだ奇跡は以下の3つです。
- カンブリア紀の生命は、海洋生物の進化によって弱肉強食の世界になっていて、海の中の生物はカルシウム分で甲羅をつくることで生き残りをかけた名残り、そのカルシウム分が海底の堆積していたこと。
- インドが南極を離れ、南半球から北半球まで1年間に15㎝北上し、その先にはユーラシア大陸があったこと。
- クロムが多い地下深くまで沈み側プレートにのって移動して結晶したルビーが、逆行して地表まで上がってきた場所があった。
フローレッセンスの鮮やかな輝きは、地球と命の象徴です。
壮大な大自然のドラマがある、地球と生命が生んだ奇跡の宝石「ミャンマー産ルビー」のルビーの母岩は、カルシウム分が主成分の堆積岩が変成した接触変成岩です
結晶になるまでの流れ
ここではミャンマー産ルビーが結晶になるまでの流れを紹介します。
- 約5億年前にカンブリア紀で生きた甲殻類やサンゴ、貝類などの生命のカルシウムが、現在のインド洋の海底に豊富に堆積していました。
- 時が流れて、約一億年前に南極を離れて北上したインドが、海底に堆積したカルシウム分(堆積岩)をブルドーザーのように北に押し上げて行きました。
- 約5000万年前からユーラシア大陸に衝突しました。
- インド側のプレートが、カルシウムの堆積岩と一緒に、ユーラシア大陸の下に潜り込むような形で沈んでいきました。
- 世界最高峰エベレスト山は、このインドとユーラシア大陸の衝突が原因の造山活動です。
- 山となって盛り上がったプレートと地下深くに沈んでいったプレートです。
- 沈み込んだプレートと一緒に移動したカルシウムの堆積岩がマグマと接触して変成したのがルビーの母岩「接触変成岩」です。
- その時、地下40㎞でミャンマー産ルビーが結晶しました。
地下深い場所で結晶したルビーは、沈み側プレートのため、通常であればマントルまで沈み込んで溶けてなくなります。
しかし、ヒマラヤ山脈の麓の極々一部に特別なエリアがあり、その結晶が地表まで上がってくる場所があります。それがモゴック、ナヤンのルビー鉱山です。
(加熱処理を必要としますが、接触変成岩起源のルビーは、原石はモンスーでも産出します)
結晶とはなにか
ここでは、結晶とはなにか?を解説します。
この世界のすべてのものは「原子」という目に見えない小さな粒でできています。
原子はほかの原子と結びついて「分子」の形で存在することが多いです。
ものには気体、液体、固体の3つの状態があるけど、それはこの原子や分子の集まり方のちがいによります。
固体のうち、原子や分子が規則正しくきちんと並んでいるものが「結晶」です。
結晶構造
結晶は、固有の原子配列の最小単位・単位格子・が積み重なってできています。
結晶はたった数個の単位格子でできていることも、数10億もの単位格子を含むこともあります。
同じ単位格子が3次元的に繰り返されて大きな結晶になります。
単位格子の形や、それが有する対象要素を反映して、結晶面の形や位置が決まります。
同じ形の単位格子であっても、格子に含まれる元素が違うと、異なった鉱物になります。
結晶の形は地質条件に左右される
鉱物の最終的な結晶形態は結晶が成長する地質条件にかなり左右され、ある結晶面が特に大きく発達する一方で別の面が消滅することにより個性的な形が生まれます。
結晶集合体の最終的な外形を晶癖といいます。
鉱物は規則的な形をしていて、1つの鉱物のなかでは、見えないほど小さな元素の粒(原子)が規則正しく、決まった順序で並んでいます。
同じ種類の原子からできていても鉱物によって、その並び方は違っています。
鉱物の名前(種名)は、色でも外形でもなく、原子の種名は色、外形でもなく、原子の種類と並び方によって決まります。
それは鉱物の中の原子が自然に、規則的に並び、それが形の基本になるからです。
ただ、同じ鉱物でも、どの面が大きくなるかは、鉱物ができた環境によって違います。
また小さな結晶が集まると、全体で一つのかたまりに見えます。
このように基本は同じつくりでも、目に見える形(外形)はさまざまです。
宝石のでき方(岩石の分類)
地球が誕生したころ、地球の岩石はドロドロに溶けていたと考えられています。
それが冷えて固まり、現在の地球のもとになる形ができました。
地球上の岩石はすべて、一度は溶けてマグマになったことがあり、マグマが冷えて固まった「火成岩」となり、自然の風化や、浸食によって「火成岩」がこわされ、低いところにたまって「堆積岩」に変わったり、地下に運ばれて「変成岩」になることもあります。
地球の岩石は姿を変えて、循環し続けています。
宝石は、3種類の岩石の分類に該当します。次の3つです。
- 火成岩:火成岩は溶融したマグマ、溶岩、ガスから結晶化します火成岩は溶融したマグマ、溶岩、ガスから結晶化します。
- 変成岩:堆積岩は地表、 または地表付近の水溶液から結晶化したものです。
- 堆積岩:変成岩は既に存在する鉱物が強い圧力と高温にさらされて再結晶したものです。
火成岩のできる仕組みはこちらから
堆積岩のできる仕組みはこちらから
この記事ではミャンマー産ルビーの結晶に関わりのある変成岩のできる仕組みを解説します。
変成岩のできる仕組み
岩石がもともとあった状態から、温度や圧力が変化してあらゆる鉱物が作られたり、特有の鉱物のならびをもつようになったものを変成岩と言います。
地下におしこめられる(広域変成岩)
地球の表層を形づくっているプレートはゆっくり動いていて、広がったり重なったり沈み込んだりしています。
プレートの沈み込むところや、大陸同士がぶつかるところでは、地表の岩石が地下にもちこまれ、引きのばされたたり、折り曲げられたりします。
こうしてできる変成岩は「広域変成岩」と呼ばれます。
広域変成作用
岩石が地下におしこめられることで地下の熱と圧力が加わり、鉱物の種類や組織が変化して変成岩になります。このような作用を「広域変成作用」といいます。
マグマの熱で焼かれる「接触変成岩」
高温のマグマが地表近くに上がってくることによって、浅いところにある地層や岩石が変化してできる変成岩もあります。
このような岩石は「接触変性岩」と呼ばれ、地下近くにおしこめられずに温度が高くなるので、プレートのしずみこみでできる広域変成岩とは見かけがことなります。
ぶつかり合った大陸が山脈を作る
プレートのしずみこみによって大陸と大陸がぶつかるところでは、間にあった海底の地層や、大陸にのった地層が圧縮されて、大山脈が作られ、大山脈の地下では変成岩が生まれます。
ルビーの産地ごとの結晶した時の環境
ルビーは、産出した場所(結晶した時の環境)によって性質に違いがあり、原産地によって市場の評価も違ってきます。
ルビーの産地の特徴は大きく分けて下記の3つに分けられます。
- 接触変成岩起源… ミャンマー、アフガニスタン、タジキスタン、ベトナム(地下40㎞の深いところで結晶する)
- 広域変成岩起源… スリランカ、モザンビーク
- 玄武岩起源… タイランド、インド、カンボジア、マダガスカル、ケニア(鉄分の多い地下20㎞と地殻で結晶化する)
ルビーとしての評価も、接触変成岩起源が一番高く、続いて広域変成岩起源、そして玄武岩起源の順番です。
特別なミャンマー産ルビー
ミャンマー産ルビーが一番高く評価される理由は、結晶する時の環境が「接触変成岩起源」のため、元素クロム(Cr)を多く含む地質地下40㎞の深いところで結晶したからです。
ルビーの赤色には、クロム(Cr)と鉄(Fe)の割合が関係しますが、鉄分の多い地下20㎞と地殻とクロムの多い地下40㎞ではルビーが結晶する時の環境が違うということです。
ミャンマー産ルビーは、365nmの紫外線にクロムが反応して鮮赤色にまるで電源を入れたように輝きます。
これはFluorescence(フローレッセンス)と呼ばれる性質で、ピジョンブラッドルビーの条件の一つです。
クロム(Cr)とアルミニウム(Al)の出会いは地球化学的に奇跡
ミャンマー産ルビーは、クロムとアルミニウムという、一緒に存在し難い元素が奇跡的に偶然出会うことで、ルビーの結晶ができています。
コランダムの結晶は成長段階でクロム(Cr)が混入した場合は赤く輝くルビーとなります。
ルビーは微量のクロム(Cr)を含有していますが、この元素はコランダム(化学式:Al2O3)の主元素であるアルミニウム(Al)とは地球化学的に相反する性質を有しています。
アルミニウムは地球の表層部あるいは大陸地殻と呼ばれる陸地を形成する地域に多く存在するのですが、クロムは地球の深部あるいは海洋地殻と呼ばれる海底を形成する地域に分布する傾向にあります。
原産地については、宝石種と同じように、鑑別業者へ分析を依頼することができ、専門的な機器を使った分析が可能です。
ルビーの産地については、専門の宝石研究所、鑑別業者に依頼して分析結果報告書(鑑別書)を取るのが良いでしょう。
コランダムとは?
コランダムとは酸化アルミニウム(アルミナ)の結晶であり、Al2O3の組成を持ちます。
他色鉱物の場合、コランダムのように鉱物名は一般的にはなじみが薄い方も多いのですが、宝石名(ルビーやサファイア)の方がは知っている方が多いです。
その理由は、鉱物名は主要構成 元素(と結晶構造)が同じものに対して名付けられるが、宝石名は同じ鉱物でも色が違うものには違う名前がつけられることが多いからです。
ルビーもサファイアもいずれも宝石として有名で、コランダムの一種です。
まとめ
この記事ではルビーの結晶について、また地球が結晶を生み出す仕組みについて解説してきました。
地下40Kmの深さのところで、熱と圧力を受けて結晶し、火山活動や地殻変動により、地表近くに押し上げられた鉱物の中で特別に美しいものが、宝石ルビーとなります。
宝石となる鉱物が地表近くに到達すること自体が奇跡的ですが、その鉱物が美しい宝石に仕上がるかも大自然のみ知ることで、人が作れないものだから、価値が高いのです。
宝石ルビーは、いくつもの自然の奇跡が重なって結晶化した貴重な宝石です。