ルビーは赤い宝石です。その赤色が一番重要であることは間違いありません。
「ルビーの価値は色で決まる」「ピジョンブラッドカラー」「ピジョンブラッドレッド」など色だけを強調する風潮がありますが、色だけで、そのルビーの品質を見分けることはできません。
大前提として、大自然の造形美である宝石ルビーは、唯一無二の個性でありルビーの色は、同じように見えても少しずつ違います。宝石の「色見本」はありません。
ここでは、天然無処理でどのような赤色か、実際ルビーを紹介し、「ルビーの色」を宝石品質判定の視点から解説をしていきます。
好きなルビーを選ぶときの参考にしてみてください。
ルビーの色見本はある?
大自然の造形美である宝石ルビーは、唯一無二の個性でありルビーの色は、同じように見えても少しずつ違います。なので、宝石の「色見本」はありません。
ルビーの色調も含めた「美しさ」については、クオリティスケールの横軸「S,A,B,C,D」のどこに相当するかという視点で見分けます。
- 「S」 輝きがあり特に美しいもの
- 「A」 特に美しいもの
- 「B」 美しいもの
- 「C」 欠点はあるが美しいもの
- 「D」 美しさに欠けるもの
このスケールの「美しさ」という目線は、宝石を観る上で非常に重要です。
なぜなら、美しさという概念は、数値化できないが私たち人間には感じられるものです。
そして数多くルビーを観ていると、美しいルビーは、クオリティスケールのS~Dに当てはまってくるからです。
鑑別業者の発行する分析結果報告書に「ピジョンブラッドレッド」「ピジョンブラッドカラー」とコメントされているルビーがそれほど美しくないという例があります。
それは、色調や蛍光性など、データで表せるものだけで判断するからです。
人に例えると分かりやすいと思います。
美しい人のスペックだけを数値化して枠をつくって、同じ数値の人を選べば、それは美しいのか?といえば、必ずしも、美しくないのと同じです。
ピジョンブラッドルビーは、素晴らしいルビーの呼称であり、色調(色合い)のことだけではないということです。
そして価値の高いピジョンブラッドルビーの色は鮮やかで濃い赤色ですが、濃ければ濃いほど良いのか?といえば、そうではなく、また別のモノサシがあります。
ルビーの色調を決める元素(着色要因)
ルビーの赤い色を生み出す微量元素はクロム(Cr)ですが、結晶全体の1%~2%の含有率といわれており、4%ぐらいになると赤灰色になってしまいます。
その他、結晶に含まれる鉄分(Fe)もその赤色に影響を与えると言われており、玄武岩起源のルビーに多く含まれます。
タイランド、インド、アフリカ産の玄武岩起源のルビーが紫外線に当たった時に、蛍光性が弱いのは、この鉄分が影響しており、成分分析をすれば分かります。
ミャンマー産ルビーは、成分分析の表では、クロムの量が多く鉄分がほとんど検出されないのに対して、タイランド産などの玄武岩起源のルビーは、クロムと同じぐらいの鉄が検出されます。
ピジョンブラッドルビーは(GQ)ジェムクオリティが条件
今回は、ルビーの色調(色合い)の話にスポットを当てていますが、踏み込んで、宝石品質判定の解説をしなければ、色調だけでルビーを選んでしまうというミスを誘発してしまいます。
宝石品質判定では、GQジェムクオリティに入る色調(色合い)のルビーが最高でありピジョンブラッドルビーと呼ぶに相応しいのです。
そのクオリティスケール上で、GQジェムクオリティ(最高品質)を取り囲むマスに入るものはJQジュエリークオリティ(高品質)、その他のものはAQアクセサリークオリティ(宝飾品質)になります。
この青いマス、灰色のマス、黄色のマスの3つのゾーンに分けることにより、それぞれのおおよその相場を出すことができます。
ここで注意するべきなのは、良い悪いと等級付けするのが宝石品質判定の目的ではないということです。
最初に申し上げた通り、すべてのルビーには、私たち人間と同じように個性があります。
色調、透明度、彩度、色ムラ、プロポーション、色の濃淡をそれぞれ指数化し、加算すると宝石の品質が分かるだろうと某協会でトライしたことがあります。
百戦錬磨のプロが寄ってたかって、品質を判定した結果、美しさをそれぞれの項目で数値化するよりも、「美しさ」という視点で感覚的に見た方が正確でした。
ひとつひとつ違うルビーの個性をひとりひとり違う人間が等級付けするのはナンセンスだということです。
結論は、審美眼を磨いたプロが、美しいかどうか?という視点で観るのが良いということです。
ルビーのサイズによって変化するベストの濃淡
ルビーを色の濃さを見分ける時のもう一つの注意点は、ルビー、特にミャンマー産ルビーの場合は、サイズによって色の濃淡を観るときに若干の調整が必要になります。
天然無処理で美しいミャンマー産ルビー(モゴック産)のクオリティスケールは、縦横6㎜×4㎜~縦横4.5㎜×3㎜/1ct~0.5ctのルビーを観るときを基準にしています。
縦横3㎜×2㎜/0.2ct以下の小粒なルビーの場合は、クオリティスケール上で0.5マス、もっと小さい場合は、1マス淡いものが良いでしょう。
逆に、10㎜×7㎜/3ct以上の大きさになってくると、その逆です。
ミャンマー産ルビーは、タイランド産ルビーと違い、光源によってその見た目が大きく変わるとても敏感な宝石です。
クオリティスケール上でGQジェムクオリティでも、0.2ct以下の小粒なルビーの場合は、蛍光灯の下では黒っぽく沈んだ赤色、濃すぎるように感じるでしょう。
大きさは、研磨のスタイルによっても最適な色の濃淡が違います。
ダイヤモンドが宝石の入り口だとしたら、ルビーは、最後に辿りつく宝石だといわれますが、専門的なアドバイスが必要です。
プロの宝石商(ジュエラー)に相談してみましょう。
ルビーの色の個性をご紹介
ここでは、実際のルビーを紹介し、「ルビーの色」を宝石品質判定の視点から解説をしていきます。
天然無処理で美しいミャンマー産ルビーには外観の個性に加えて、結晶内部にも、それぞれの個性があります。
モリスでは、すべてのルビーの顕微鏡拡大写真を撮影し、そのルビーのID番号と共にインクルージョンの情報をファイルします。
ルビーのインクルージョンについて詳しくはこちらから
ここでは一部のルビーをご紹介します。
ルビー22DR0021 0.08ct
丸く整った外観のラウンド型ブリリアントカットに磨かれた天然無処理で美しいミャンマー産ルビーは、同国最北部カチン州にある幻のルビー鉱山ナヤン(Nam-Ya)で発掘されました。
漂砂鉱床であるナヤン鉱山では、小さく丸くなった、ピンキッシュで透明度の高い原石が多く産出されます。(もちろん、処理が必要な黒っぽい原石の方が遥かに多く産出しますので、研磨すれば無処理で美しいルビーの原石という意味ですが)その原石をヤンゴンにいる研磨職人ゾーミンチョーが、いい仕事をして仕上げてくれました。
サイズは、縦2.6㎜/横2.5㎜/深さ1.7㎜、重さは0.08ctです。紫味を帯びながらしっかりとしたルビーの色調と、彩度の高い結晶です。微小な結晶インクルージョン、糖蜜状組織、シルクインクルージョンと原石の時から入っているフラクチャー(割れ、ヒビ)が確認でき、結晶の質は非常に良いのですが、透明度については「悪くない…」といった水準です。
フラクチャーについては、ダイヤモンドでこの大きさのフラクチャーが入っていると、確実に「欠点」があると認識されて、4Cのクラリティでは「I₁~I₂」になるでしょう。
内包物が目立つため品質が低いとされます。ダイヤモンドには、劈開面があり、割れる癖のある宝石で、割れ難いルビーと違うところですが、割れる原因となるフラクチャーはインクルージョンとしては、ルビーの品質を上げることもあるシルクインクルージョンとは違う視点で見ることになります。
これらを考慮したうえで、このルビーを宝石品質判定のクオリティスケール上でみた場合、美しさ「A⁻」輝きがあり美しいものですが、前述の通り、インクルージョンが少し多いことと、破損の原因にはならないもののフラクチャーが目立つ点を考慮しました。
色の濃淡は「#3」大きさ直径約2.5㎜のラウンド型ブリリアントカットとしては、明るめのルビーが好きな方にはピッタリだと思います。そして、このルビーをクオリティスケール上でみたGQ/JQ/AQの3つのゾーンに分けるとJQジュエリークオリティ(高品質)になります。
ルビー22DR0010 0.07ct
褐色味がありコクのある色調と高い透明度と直径2.5㎜の小粒でキレイなラウンド型の天然無処理で美しいミャンマー産ルビーは、同国最北部カチン州にある幻のルビー鉱山ナヤンで発掘された小粒で丸い原石をヤンゴンにいる研磨職人ゾーミンチョーが前述の通りラウンド型のブリリアントカットに磨きました。
サイズは縦横2.5㎜/深さ1.5㎜と縦横に対する深さのバランスは色の濃さも考え合わせるとちょうど良い寸法です。
宝石品質判定のクオリティスケール上でみた場合、美しさ「A」輝きがあり美しいもの、透明度の高さは、特筆するべきものであり、青味をほとんど感じさせません。
ただ、ナヤン産のこの色調のルビーは蛍光性が少し弱くなる性質があり、このルビーも少しその傾向があります。もしこのルビーに強い蛍光性があったとしたら「S」~特に美しいものになっていたでしょう。
色の濃淡は「#5.5」大きさを考えると濃いルビーがお好きな方にはおすすめですが、一部の方は、もう少し淡い色の方が良いとおっしゃるかも知れません。
そして品質を3つのゾーンに分けた場合、GQジェムクオリティ(最高品質)です。小粒なルビーですが、その内なる世界を顕微鏡で拡大していくと、もう一つの世界が広がります。わずか数ミリの世界に広がる小宇宙です。拡大すればどんどん広がっていきます。普段の生活では気にならないほど小さな世界にもしっかりとした法則が存在していることが分かります。
このルビーの中に漂っている結晶インクルージョン、薄っすらと入っているシルクインクルージョンが下の写真でご覧いただけると思います。シルクインクルージョンは、ルチルの細い針状結晶が、60度/120度/もしくは30度の挟み角で、まるで絹を編んだように見えることからシルクと呼ばれますが、どれだけ拡大しても同じ…ミクロの世界にも大自然の法則が私たちの目には見えないところでもしっかり働いていること感じます。
なぜ人類は時代を超えて宝石に魅了されてきたのか?インクルージョン、ルビーの中の景色を見ていると感性が豊かになっていくような気もします。ひょっとしたら、それが人類が大切にしてきた理由かもしれません。
ルビー14FY0017 0.35ct
素晴らしいプロポーションとパッと鮮やかな印象を受ける天然無処理で美しいミャンマー産ルビーは、ピジョンブラッドルビーを産出する鉱山として有名な同国中北部の中山間地域にあり、世界的にその名の知られるルビー鉱山モゴック(Mogok)です。
結晶に軸があり、他の宝石と比べて研磨する時に良いプロポーションに仕上げることが難しい宝石ルビーにおいてほぼパーフェクトです。これは原石の形が良かったからです。
希少性がとても高い天然無処理で美しいミャンマー産ルビーの原石は結晶の生地そのものが貴重であるため、新産のものは通常、すこし歪な形が普通です。完全な形をしたものは、通常、何百年前に産出されて、アンティークジュエリーとして受け継がれ、そしてリカット(再研磨)されたものです。それだけ希少性が高いということです。
市場で見るほとんどのルビーは、還流したもののはずです。プライマリーソース(一次鉱床=母岩に着いた状態で発掘される鉱区)で採掘される原石であれば、前述の通り、なるべく大きく結晶を残すため、どこかしらに生地不足などがありますが、このルビーにはその生地不足もありません。パーフェクトです。
この新産のルビー、原石の形が良かったことは前述の通りですが、ヤンゴンで磨かれ、縦4.0㎜/横3.8㎜/深さ2.9㎜、重さは0.35ctの立派なサイズ、クッション型のミックスドカットに仕上がりました。そして、宝石品質判定のクオリティスケール上でみた場合、美しさは「A」輝きがあり美しいもの、色の濃淡は「#4」サイズを考えるとほぼベストに近い濃さです。クオリティを3つのゾーンに分けるとJQジュエリークオリティ(高品質)です。結婚指輪や還暦のお祝い(赤いちゃんちゃんこよりも今の時代はルビーが良いと思います)など思い出に残る人生の大切なイベントに贈るジュエリーに使っていただきたいと思います。
いつの日か、また次の方に受け継ぐときに、思い出がキラキラと輝きだすはずです。
まとめ
この記事では、ルビーの色見本について解説してきました。
大自然の造形美である宝石ルビーは、唯一無二の個性で、それぞれのルビーの色は、同じように見えても少しずつ違います。
そして色以外の要素が影響して、色が良くても宝石として美しくないと判断されることもあります。
様々なルビーを紹介し、「ルビーの色」を宝石品質判定の視点から解説をしていきました。
あなたの好きなルビーと出会うために是非参考にしてみてください。