ルビーとスピネルの違いと見分け方【その他の赤い宝石も紹介】

「ルビー」という名前は歴史上、ガーネットからスピネルまで、数多くの赤い宝石に使われてきました。

希少で価値のあるルビーを欲しいという人々の気持ちが、同じく赤い宝石のスピネルの別名をバラスルビーと呼ばれていました。

レッド・スピネルは、宝石鑑別教育の誕生のきっかけとなり、19世紀にはじめて、科学的な定義がなされました。

この記事では、ルビーとスピネルの違いについて詳しく解説していきます。

Contents

長い間、ルビーと区別されなかった赤い宝石レッドスピネル

原石

ミャンマー産天然無処理のルビーの原石

レッドスピネルの赤い石は、クロムや鉄に由来します。

花崗岩や、変成岩中のコランダムと一緒に産出するため、長い間ルビーと考えられていました。

鉱物の分類が可能になり、現在のような宝石名が普及したのはこの200年あまりのことです。

「小さな刺」を意味するスピネル

刺

多くのスピネルの原石は、ダイヤモンドの原石と同様に、正八面体をしています。

これがトゲに似ていることからラテン語でトゲを意味するスピナが転じて、スピネルと呼ばれるようになりました。

宝石のスピネルは酸化マグネシウムアルミニウムであるが、スピネルという名前は、同じ結晶構造を持つ酸化物の構造の型にも使われる(スピネル構造)

ルビーと間違われたスピネル【黒太子の「ルビー」】

ルビーとスピネル

レッドスピネルがルビーと違う鉱物ということは1783年まで明確になっていませんでした。

ルビーと間違われていた石として一番有名なのは、英国の大礼用王冠(インペリア・クラウン)のセンターにはめ込まれている「黒太子のルビー」は、ルビーではなくレッド・スピネルです。

このスピネルはイングランドがカスティーリャ王、ペドロ残酷王を支援して1367年のナヘラの戦いで勝利したのち、イングランド王エドワード2世の息子であるエドワード黒太子にペドロ王から贈られたものとされ、現在も王冠の主石として、美しさを誇るようにセットされています。

ルビーとスピネルは光の屈折で見分ける

光の屈折

宝石学者がルビーとスピネルを区別するようになったのは、19世紀後半になってからです。

ルビーとスピネルは見た目がほぼそっくりで、化学成分が類似し、硬度もあまり変わらないため、長らく混同されてきました。

ルビーとスピネルを区別できるのは、光の屈折

ルビーとスピネルを区別で、光の屈折です。

  • ルビーは2つの屈折
  • スピネルは1つの屈折

光はルビーに入射すると2つに分かれ、それぞれ異なる速さで透過します。

一方、スピネルに入射すると、光は分かれることがなく透過します。

スピネルは単屈折の鉱物で屈折率は約1.72です。多色性は見られず、すべての結晶方向に同じ物理的な性質を持ち、単屈折率のため、どの方向から見ても同じ色が見えます

ルビーは複屈折で、屈折率は約1.76〜1.77です。

屈折率が高いほど光が屈折しやすく、輝きが強くなります。

ルビーと似た3つの類似石

赤い色

よく似た赤色系統の宝石とルビーの違いを紹介します。

  1. ガーネット
  2. スピネル
  3. ルベライト

ガーネット(パイロープ)

ざくろの実に似た結晶で、深い赤が特徴のガーネット。

チェコのボヘミア地方で産出したため、ボヘミアンガーネットという呼び名で有名で、欧州ではルビーと同じようにロイヤルファミリーのジュエリーにも使われていました。

パイロープとは「火」を表すギリシャ語から名づけられました。色はクロムや鉄に由来し、深い赤が特徴です。

ダイヤモンドの母岩であるキンバーライトの中からも産出されます。また風化作用で母岩から離れ、丸くなった砂利として採掘されます。

スピネル(レッド)

長い間、ルビーと混同されてきた赤い宝石がスピネルです。

ミャンマーの漂砂鉱床では、ルビーと同じように産出されますので、間違いやすかったのかも知れません。

レッドスピネルの赤い色は、クロムや鉄に由来します。花崗岩や変成岩からルビーと一緒に産出するため、長い間、欧州ではルビーと考えられていました。

しかし、インドでは2000年前からルビーとスピネル、ガーネットを見分けて、等級付けをしていることから、ルビーに関しては、アジアが先進国でした。

ルべライト

緑色や青色が良く知られているトルマリンには、赤いものがあり、ルベライトと呼ばれ、ルビーの類似石です。

驚いたことに、中国上海では2005年に、まだルベライトを宝石ルビーだとして販売していました。

ルビーの類似石は、この他にレッドトルマリン、カーネリアン、レッドオパール等があります。

ルビーとスピネルの硬度の違い

スピネルの硬度は8、ルビーの硬度は9です。硬度が高いほど傷つきにくく耐久性が高いです。

スピネルも硬度も高く、安定性に優れている宝石なので、日頃から身に着けやすい宝石です。

特別な宝石ルビー

ルビーとスピネル

それぞれの宝石が、歴史的に見てどのように扱われてきたのかという文化的側面を考え合わせなければ、何百年経っても変わらない(経年変化のない)宝石の価値判断はできません。

100年前には、宝石として存在していなかった宝石種も商業的にどんどん増えていますが、四大宝石(ルビー、エメラルド、ダイヤモンド、サファイア)、有機物ですが真珠も含めて、確固たる伝統と慣習がありますが、その中でもルビーは、特別な存在で異次元です。

ルビーの語源

赤い色

ルビーと聞いて、宝石の種類の一つだということが分からない人でも、聞いたことが無い人はいないでしょう。

その語源は、ルビヌス(ルビウス)旧ラテン語で「赤」を表す言葉です。

ルビーの語源である「赤」には、揺るぎない伝統と慣習があり、そして、地球上で最も丈夫な赤い結晶が「宝石ルビー」です。

ルビーの伝統と慣習

火

宝石学が発達する遥か以前の紀元前3000年、バビロニアでは、既にさそり座の胸にある赤い星アンタレスの欠片として重要な宝石として扱われています。

その後、天文学が発達した古代ギリシャでは、ルビーは、最高神ゼウスの次男で、戦いの神様マルスを象徴する赤い惑星「火星」のシンボルとされました。

現在、♂は男性を表すマークとして使われていますが、これは軍神マルスを表すマークです。

戦いで使う武器である槍を↑で、盾を〇で表したものです。

その当時は、武器をつくる、銅と鉄は「赤い金属」だと考えられていました。

旧約聖書に登場する赤い宝石「カルブンクルス」、聖書の「人の知恵は、ルビーにも勝る」などの記述、そしてお釈迦様(阿弥陀如来の頭上に輝く肉髻朱)も紅玉、ルビーであることも、意外に知られていません。

更に、深く掘り下げると、ルビーの語源である「赤」は、人類最古の色だと言われています。

その理由は、人の目の中にある網膜の光線を感知する細胞である「錐体」の60%は赤い光線を感じるものです。

要するに、人類の眼は赤色を探す為に進化したのかも知れないという仮説がたてられます。

赤色(赤い光線)は、人の皮膚を透過して身体を突き抜けていく光線です。懐中電灯で、手のひらから照射して、手の甲から見てみて下さい。赤色が透過してくるはずです。

遠赤外線治療という血行を良くする医学療法がありますが、赤い光線(赤及び赤外線)は、体内に取り込んで細胞に刺激を与えることで血行が良くなるものです。

長波で幅が狭いため、遺伝子にキズをつけずに体温を高く保つのに効果があるそうです。

その反対にある紫色、更に波長の短い光線「紫外線」は、エネルギーが強すぎて体内に取り込むと染色体にキズをつけるので、メラニン色素を出して体内に入るのを防ごうとするのとは、逆です。

氷河期を二度も生き抜いた人類がルビーの色「赤」を大切にする伝統や慣習をもっていることは、様々な書籍で立証されています。

カナダ・ビクトリア大学のジェネビーブ・ボン・ペッツィンガー氏著書の「最古の文字なのか?」という書籍には、第八章「洞窟壁画をいかに描いたか?」は、「人類に深く刷り込まれた“赤”への愛着」という文章から始まっています。

2万7000年前のスペインのラ.パシエガ遺跡には、レッドーオークで赤い顔料をつくるための砥石が見つかっており、現代人と同じような方法で赤い顔料を作り出していたことに驚いたという記述があります。

天然無処理で美しいミャンマー産ルビーが特別な理由

ミャンマー産ルビーの母岩

天然無処理で美しいミャンマー産ルビーが特別な理由は、その結晶した時の環境が奇跡的だったいうことです。

ヒマラヤ造山活動に関連した接触変成岩起源

  • 約5億年前に生きた海洋生物のカルシウム分が海底に堆積していた
  • 今から約1億年前に南極から離れたインドが1年間に15㎝北上してきた
  • 海底のカルシウムの堆積岩をブルドーザーのように北に押し上げた
  • ユーラシア大陸と衝突、インドプレートは沈み側になり地下へ移動した(ヒマラヤ山脈の造山活動)
  • 地下40㎞の深いところでアルミ(Al)を主成分にコランダム(Al₂O₃)が結晶した。
  • 地下20㎞以深には、コランダムを赤くするクロム(Cr)が多かった
  • 沈み側プレートと一緒にマントルに吸収されて溶ける運命だったルビーが、近く接合面にできた渦によってごく一部が地表に運ばれた。
  • 生命の存在とプレートの移動、そして沈み側プレートであるためクロムが多い深いところまで移動したこと、更に、その一部の地層がヒマラヤ山脈の造山活動で生まれた渦によって地表まで上がってきたという7つの奇跡が重なって結晶した、類稀な宝石が天然無処理で美しいミャンマー産ルビーです。ちなみにピジョンブラッドルビーは、この接触変成岩起源のルビーのことを指します。

「非加熱ルビー」という商品名だけでは価値は分からない

非加熱ルビーという商品名で流通しているルビーがありますが、そのほとんどが、第三者である鑑別業者が発行する「鑑別書」に「加熱した痕跡が認められない」とコメントしているに過ぎません。

分析結果報告書であり、どこにも非加熱ルビーだとは記されていません。

そして、鑑別書には、品質を保証する書類ではないことが明記されています。
ただ、第三者であり、宝石鑑別を専門にする業者が発行する意見書は、あった方が良いのは間違いありませんが、高額なお買い物です。
手放す時のことを考えた場合は、販売したお店に「天然無処理」だと保証してもらうことが大切です。

そして宝石ルビーの値段(価値)は、品質によって決まるものであり、非加熱というのは、品質判定の要素の一部だということを理解しておきましょう。
宝石品質判定の基準で、相場と照らし合わせて値段が適正なのかチェックできれば安心です。

まとめ

ルビーの歴史は長く、また人気が高かったことから、数多くの種類のものがルビーとして世の中に出回っています。

宝石ルビーだと思っていたが「ルビーによく似ていたスピネル」だったということもありました。

ルビーという名前がついている商品には、色々な種類のものがあります。

天然ルビーであっても、人為的に処理をされて美しさが改良されたモノかも知れません。

色々と種類のある赤い石の中からルビーを選ぶときは宝石品質判定を使って、ルビーを探してください。

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