現在では赤いコランダムをルビー、青を含む赤以外のコランダムをサファイアと呼んでいますが、ルビーとサファイアが、ともにコランダムという酸化アルミニウム鉱物であることが明らかにされたのは18世紀に入ってからのことです。
それ以前は、「ルビー」はレッドスピネルや赤のガーネットを含む赤い石のことをさしていました。
この記事ではルビーとサファイヤの違いについて解説していきます。
赤いルビーとサファイアは同じ宝石?
ルビーとサファイヤを違う宝石と思っている方も多いと思いますが、ルビーやサファイヤは同じコランダムという鉱物です。
コランダムには、虹に見られる赤・橙・黄・緑・青・藍・紫の7色がすべて存在します。
赤はルビー、青いものを一般的にサファイヤ、そしてその色相の物には色名の後にサファイヤをつけ、まとめてファンシーカラーサファイヤと呼ばれています。
同一鉱物の色の違いによる宝石の分類は、色相で行うのが適切です。
ピンクサファイヤとピンキッシュルビーの線引き
ピンクサファイアとルビー線引きの定義に世界共通のものはありません。
淡い赤い色のコランダムをピンクサファイアと呼ぶか、ピンキッシュルビーと呼ぶかは議論の余地があります。
淡い赤色のコランダムを業者によってルビーといったり、また他の業者によってはピンクサファイアと呼んだりしますが、この問題の根底にあるのは、ルビーは高額でピンクサファイアは比較的安価であるという部分です。
鑑別書にルビーと記載されるか、ピンクサファイアと記載されるかによって、販売価格が大きく変わるのです。
しかし宝石品質判定の基準を使って品質をキチンと見分けると淡い色のルビーもピンクサファイアも名前が違うだけで、品質は同じ、要するに値段は同じなのです。
ルビー専門店のモリスは、宝石品質判定のクオリティスケールの色の濃淡(トーン)で、#2のものはピンキッシュルビーと呼んでいます。
呼び名で値段が変わる方がおかしな話です。
唯一無二の個性、同じ色のルビーはありません
ルビーは赤い宝石です。その赤色が一番重要であることは間違いありません。
「ルビーの価値は色で決まる」「ピジョンブラッドカラー」「ピジョンブラッドレッド」など色だけを強調する風潮がありますが、色だけで、そのルビーの品質を見分けることはできません。
大前提として、大自然の造形美である宝石ルビーは、唯一無二の個性でありルビーの色は、同じように見えても少しずつ違います。宝石の「色見本」はありません。
ここでは、天然無処理でどのような赤色か、実際ルビーを紹介し、「ルビーの色」を宝石品質判定の視点から解説をしていきます。
大自然の造形美である宝石ルビーは、唯一無二の個性でありルビーの色は、同じように見えても少しずつ違います。なので、宝石の「色見本」はありません。
ルビーの色調も含めた「美しさ」については、クオリティスケールの横軸「S,A,B,C,D」のどこに相当するかという視点で見分けます。
- 「S」 輝きがあり特に美しいもの
- 「A」 特に美しいもの
- 「B」 美しいもの
- 「C」 欠点はあるが美しいもの
- 「D」 美しさに欠けるもの
このスケールの「美しさ」という目線は、宝石を観る上で非常に重要です。
なぜなら、美しさという概念は、数値化できないが私たち人間には感じられるものです。
そして数多くルビーを観ていると、美しいルビーは、クオリティスケールのS~Dに当てはまってくるからです。
鑑別業者の発行する分析結果報告書に「ピジョンブラッドレッド」「ピジョンブラッドカラー」とコメントされているルビーがそれほど美しくないという例があります。
それは、色調や蛍光性など、データで表せるものだけで判断するからです。
人に例えると分かりやすいと思います。
美しい人のスペックだけを数値化して枠をつくって、同じ数値の人を選べば、それは美しいのか?といえば、必ずしも、美しくないのと同じです。
ピジョンブラッドルビーは、素晴らしいルビーの呼称であり、色調(色合い)のことだけではないということです。
そして価値の高いピジョンブラッドルビーの色は鮮やかで濃い赤色ですが、濃ければ濃いほど良いのか?といえば、そうではなく、また別のモノサシがあります。
ルビーの色調を決める元素(着色要因)
ルビーの赤い色を生み出す微量元素はクロム(Cr)ですが、結晶全体の1%~2%の含有率といわれており、4%ぐらいになると赤灰色になってしまいます。
その他、結晶に含まれる鉄分(Fe)もその赤色に影響を与えると言われており、玄武岩起源のルビーに多く含まれます。
タイランド、インド、アフリカ産の玄武岩起源のルビーが紫外線に当たった時に、蛍光性が弱いのは、この鉄分が影響しており、成分分析をすれば分かります。
ミャンマー産ルビーは、成分分析の表では、クロムの量が多く鉄分がほとんど検出されないのに対して、タイランド産などの玄武岩起源のルビーは、クロムと同じぐらいの鉄が検出されます。
ルビーの遷移元素について詳しくはこちらで解説しています。
ピジョンブラッドルビーは(GQ)ジェムクオリティが条件
今回は、ルビーの色調(色合い)の話にスポットを当てていますが、踏み込んで、宝石品質判定の解説をしなければ、色調だけでルビーを選んでしまうというミスを誘発してしまいます。
宝石品質判定では、GQジェムクオリティに入る色調(色合い)のルビーが最高でありピジョンブラッドルビーと呼ぶに相応しいのです。
そのクオリティスケール上で、GQジェムクオリティ(最高品質)を取り囲むマスに入るものはJQジュエリークオリティ(高品質)、その他のものはAQアクセサリークオリティ(宝飾品質)になります。
この青いマス、灰色のマス、黄色のマスの3つのゾーンに分けることにより、それぞれのおおよその相場を出すことができます。
ここで注意するべきなのは、良い悪いと等級付けするのが宝石品質判定の目的ではないということです。
最初に申し上げた通り、すべてのルビーには、私たち人間と同じように個性があります。
色調、透明度、彩度、色ムラ、プロポーション、色の濃淡をそれぞれ指数化し、加算すると宝石の品質が分かるだろうと某協会でトライしたことがあります。
百戦錬磨のプロが寄ってたかって、品質を判定した結果、美しさをそれぞれの項目で数値化するよりも、「美しさ」という視点で感覚的に見た方が正確でした。
ひとつひとつ違うルビーの個性をひとりひとり違う人間が等級付けするのはナンセンスだということです。
結論は、審美眼を磨いたプロが、美しいかどうか?という視点で観るのが良いということです。
ルビーの語源
ルビーの由来は、「赤い石」です。
古代ローマの人達は、ルビーは赤く輝く宝石で、石の中で燃えて消すことができない炎を持っているといわれ、別名「(燃える石炭)カルブンクルス」と呼ばれていました。
ルビーの語源はその後、旧ラテン語で「赤」を意味する「ルベウス(rubeus)」となりました。
ルビーはカルブンクルスとして聖書にも登場します
ルビーは旧ラテン語、カルブンクルスとして聖書に登場します。
14世紀の宗教改革者ジョン・ウィクリフと弟子たちが聖書を英訳した際、ラテン語の原典から千語を越える単語を借用したといわれています。
13種類の宗教的なシンボルが刻まれたマルティン・ルターのルビーの結婚指輪に使われているルビーは、365nmの紫外線に反応する接触変成岩起源(ミャンマー産)の特徴があります。
聖書の博士として名を馳せたマルティン・ルターは、旧約聖書に登場する「嵐の中でノアの方舟の中で輝いたカルブンクルス(カーバンクル)」が、拡散光で届いた紫外線に反応するのが、接触変成岩起源のルビーだということを知っていたのかも知れません。
- 旧約聖書の中にも登場する「ノアの方舟の中で輝いたカルブンクルス(カーバンクル)」
- 聖書で登場する「人の知恵はルビーにも勝る」
サファイアの語源
サファイアは「青色」を意味するギリシャ語起源のラテン語に由来しているので、本来は青い色の宝石につかわれていました。
しかし、今では青色以外(赤色を除く)ものも、頭に色の種類を冠して、たとえばピンクサファイア(ルビーほど赤色が濃くないもの)といったように呼びます。
サファイアは紀元前7世紀以降、ギリシャ、エジプト、ローマでジュエリーとして使われ、中世には広くヨーロッパの王たちに好まれた宝石です。
13世紀にスリランカを訪れたマルコ・ポーロも、その著書の中で、ルビーとともにサファイアを高く評価しています。
サファイアとサファイヤ
サファイアのスペルはsapphireとなっていますので、普通に読んでいれば「サファイア」と読めると思います。それ以外にも、用語辞典とか宝石を扱っている店舗等色々なところでサファイアと書かれていることが多いです。中には宝石店であってもサファイヤと書いているところもあります。
サファイアの主成分
コランダムの主成分(サファイヤの鉱物名)はAl(アルミニウム)です。
主成分のAlは特定の微量成分に置き換わります。
サファイヤはチタン(Ti)と鉄(Fe)などが微量成分です。
主成分のAlを置き換えていることを簡略式では(Al,Ti,Fe)2O3と表現します。
ブルーサファイアでも発色の原因は少量の不純物遷移元素
ルビーにおけるクロムのように、主原因となる元素は一種類でしたが、サファイアは違います。
実験室のような純粋系と違って化学的には複雑多岐である自然界で育つ鉱物は、何種類もの不純物元素を含むこともあります。
サファイアの青色は、不純物である2種類の遷移元素の間の「電荷移動」というメカニズムによっています。鉱物はプラスとマイナスの成分が電気的にバランスして成り立つので、化学的には酸化アルミニウムであるコランダムでは、プラス3価のイオンになるアルミニウムとマイナス2価のイオンになる酸素が、電気的なバランスをとっています。
コランダムはアルミニウムと酸素が2:3の比率できあがています。
アルミニウムと酸素の世界に混じり込んだ微量の鉄とチタンはどちらの元素も、主成分のアルミニウムをちょこっと置き換えてコランダムの格子に収まっています。
スターサファイアとスタールビー
鉄とチタンの過不足は、サファイアの色が理想から離れることにもつながります。
鉄が箇条の場合は、鉄のd電子による光の吸収が電荷移動による吸収と重なって、サファイアは暗い色調を表します。一方チタンが過剰である場合は、コランダムが出てきた時から温度が下がるにつれて不純物として存在しきれず、「ルチル(2酸化チタン)」という別の鉱物のごくごく細い針となってコランダム内にでてくるようになります。
このようなルチルの細かな針を「シルクインクルージョン」と呼びます。
コランダムの変種として、ある方向から見ると光の反射が6条の筋に見えるサファイヤやルビーがあります。光の筋が現れる現象をスター効果といいます。
インクルージョンによる光の錯乱
スター効果とは、結晶に含まれる非常に細かい針状のインクルージョン(包有物)が光を散乱することで起こります。
針状結晶の配向(結晶の方位が揃う方向)は、母相の結晶構造に影響され、直交する2方向に配列すると4条の、3方向に配列すると6条のスターが現れます。
ルビーの発色は微量のクロムによりますが、スタールビーができるためには、さらに、チタンを多く含み、かつルビーの色を打ち消さないように鉄が結晶中に入らないという条件が必要になり、そのため、スターサファイヤよりスタールビーの方が産出は稀です。
還流している伝統のサファイヤ
カシミール産サファイヤは、1881年頃ヒマラヤの北西(インドとパキスタンの国境)に位置するカシミール地方、標高4000mのところで、かなりの量のサファイヤが発見されました。
現在では産出がほとんどないため、20世紀初頭に作られたリングやブローチでに見られることがあります。
カシミール産のコーンフラワーブルーは大変高価です。
「この記事の主な参考書籍・参考サイト」
- 「決定版 宝石」著者:諏訪恭一/発行:世界文化社
- 「Newton別冊美しく奥深い鉱物の世界 鉱物事典」発行ニュートンプレス
- 「図説 鉱物の博物学第2版」著者:松原聡/宮脇律郎/門馬綱一 / 発行:秀和システム
- 「深堀り誕生石 宝石大好き地球化学者が語る鉱物の魅力」著者:奥山康子/発行築地書館
まとめ
この記事ではルビーとサファイアの違いについて解説していきました。
相性いい宝石と出会うために是非参考にしてみてください。