ひとつひとつの宝石は個性的で、 無限の美しさがちりばめられています。多くの場合、インクルージョン(内包物・包有物)の特徴が産地を判断する手だてなり、またインクルージョンが確認できることは天然であることの確証にもなり得ます。
この記事では、宝石の内部特徴のインクルージョンや成長構造について詳しく解説をします。
宝石の内部の世界インクルージョンとは?
宝石には数多くの種類がありますが、そのほとんどは鉱物であり、結晶 です。
結晶は種類ごとにそれぞれ一 定の化学組成と構造を持ち、そのため、結晶各々が固有の特性を持っています。
結晶の理想モデルでは、構成原子が規則正しく並び一点の乱れもないものですが、実際の結晶成長のプロセスは非常に複雑なため、環境に大きな影響を受け、現実には種々の乱れが生じたことにより、結晶の中に不純物が含まれています。
結晶の中に含まれる不純物のサイズは、原子オーダーから肉眼で認めることができるものまでありますが、宝石に見られる内部特徴は、環境の条件や変化に起因し、ルーペなどの観察道具を用いることで拡大して観察することができます。
育む地質環境に影響する
内部特徴の観察は宝石の起源あるいは成長の履歴を知る上でもっとも重要なことです。
自然界における宝石の誕生は、宝石を育む地質環境に存在する元素の種類、さらに温度や圧力などの条件により決定されます。
地質ごとに産出する宝石種は限定されていて、その環境条件の違いは宝石の内部特徴に反映されているということです。
反対に、人工的に規制された条件のもとで造られる合成石には、天然のそれとは異なる内部特徵が見られます。
宝石の内部特徴は2つに大別されます。
- インクルージョン(包有物):結晶が成長する以前から環境中に存在していたか、あるいは 共に生じた異物が取り込まれたり、結晶が成長した後に生成されたもの
- 成長構造:結晶が成長する以前から環境中に存在していたか、あるいは 共に生じた異物が取り込まれたり、結晶が成長した後に生成されたもの
宝石種ごとに見られる固有のインクルージョンや成長現象は、天然、 合成などの起源の証拠となるばかりではなく、産地を示唆する場合もあります。
また、人間ひとりひとり顔が違うように、たとえ同種の宝石であっても、個々に観察される内部特徴は千差万別であるため、宝石ごとに見られる固有のインクルージョンは、個体識別の手掛かりともなるものです。
近年、各種の分析機器が開発され、宝石の研究も進歩していますが、宝石自体が高価であることから、破壊を伴う検査には限界があります。包有される物質が微小なことから、 確実な成分分析は困難なケースがほとんどである。
そのため、色、形態、分布状態などの入念なルーペでの視覚的観察が重要です。
インクルージョン
インクルージョンとして包有される物質は以下の3つです。
- 固相
- 液相
- 気相として単独で存在する
- これらが2種または、3種が共存して見られることもあります。
1 固相インクルージョン
①結晶インクルージョン
重要な宝石の固相インクルージョンのほとんどは結品鉱物です。
インクルージョン鉱物はその種類に富み、 色や形態も多種多様です、起源あるいは成長環境に関する多くの情報を提供してくれます。
結晶の形
結晶の形はその生成時期により大きく3つにわけることができます。
- 初生インクルージョン:主結晶が成長する際に、周辺に存在し ていた物質がインクルージョンとして取り込まれた場 合
- 同生インク ルージョン:主結晶が成長する際に、周辺に存在し ていた物質がインクルージョンとして取り込まれた場合
- 後生インクルージョン:主結晶が成長した後に出現した場合
結晶の形①初生的なインクルージョン
初生的なインクルージョンは、偶発的に主結晶に取り込まれることから、ランダムな分布 が一般ですが、ごく小さな鉱物結晶が特定の結晶面や後に沿って配列しているのが見られることもあります。
結品は理想的な環境の下で成長した場合には自形 (Euhedral)となり、内部構造が反映された平らな結晶 面で囲まれた形態を示します。白形結晶は一般に、宝石が 生成される以前から存在していた鉱物が取り込まれた、初生インクルージョンに分類されるものが多いです。天然石に観察される鉱物インクルージョンは、理想的な幾何学形態を示すものは少なく、自形であっ ても変形したり、一部が破損したものが多いです。宝石に取り込まれる際に触融され、自形を失って丸みを帯びたものもあります。
結晶の形②同生インクルージョン
同生インクルージョンの場合には、一般にその分布は 不規則で特別な方向性を持ちません。
成長条件に規制されて、本来その鉱物がとるべき自形とは相違した品癖で、柱状、針状、粒状、 板状、薄片状などになることもあります。このような場合には、視覚的に鉱物種を限定することは難しいです。ある種の特異性を持つものについては自形同様、産状を知る上で有効な手掛かりになることもあります。
結晶の形③後生インクルージョン
後生インクルージョンは、主結晶の成長時に取り込まれた成分が、その後の条件変化に伴い離溶した結晶です。主結晶の構造に規制された明らかな方向性を示すのが特徴です。
結晶の色
視覚的な観察からその種類の判断が求められるインクルージョンは、形状だけでなくその色もまた重要な要素です。同じ形であっても色が異なっていれば、別種の結晶である可能性が高いです。しかし、インク ルージョンの色は大きさや厚みや宝石の地色、照明方法などでかなり印象が異なることもあるため、充分な観察が必要です。
②液相インクルージョン
液相インクルージョンは最も普遍的で、いずれの宝石種にも見られ、サイズの大きい結晶欠陥である内部の空障部分(キャビティ)に、純水、炭酸 水、塩水の他、油性溶液などが残留したものです。
溶液から結晶が成長するさまざまな過程で同生的にその母液が取り込まれたものでありますが、後生約に結晶の割れ目などに溶液が侵入することもあります。
同生的に取り込まれた溶液は、その後の温度低下に伴って気相を分離して二相インクルージョン になることが多いです。中には気相だけではなく結晶が析出した三相インクルージョンもあり、異なる種類の溶液が混和しないまま共存しているケースも見られます。
液相インクルージョンの形態および分布
液相インクルージョンとは結晶欠 陽に残留した溶液で、その形態および配列分布は、 主結晶の影響を受けています。
同生的な液相インクルージョンの多くは、母液が取り込まれた後にそこから継続して主結晶を晶出するため、多数の小滴状の集合となります。このようなタイプを普通は液体インクルージョン と呼んでいます。個々の形態は一般に球形、円盤形、そして不 定形とさまざまでありますが、全般にほぼ平面的な分布をみなすのみで、特に規則性は認めらていません。
主結晶が成長する際に形成されたマクロなオ ーダーの結晶欠陥が管状に長く伸びて、その中を母液が満たしたチューブ・インクルージョンは、軸に平行する規則正しい分布を示します。これらが 密度高く配列した場合には、シャトヤンシーの一因となります。
ネガティブ・クリスタル は非常に特異なタイプで、主結晶の空隙部に同生的に取り込まれた母液の成分から、結晶成長後もさらに晶出が生じる結果、 残留液は結晶面に囲まれた多面形の小キャビティに閉 じ込められた状態で、主結晶の結晶構造に従って一定 方位に配列します。そのため、液相インクルージョンであるにもかかわらず、結晶インクルージョンと誤りやすいです。
後生的な資相インクルージョンは、結品の割れ目に浸透した溶液が、内部で結晶化して癒着し、鏡面のように滑らかで、逆に昆虫の畑、網目状、指紋状などのパターン模様を示す液膜インクルージョン になることが多いです。液相がある程度の面積をもって鏡面のように広がっている場、ある角度では全反射を起こして黒く見えても、石を回転させると光を反射して輝いて見えるのが 特徴で、偏光下で観察すると、美しい干渉色を示すことが多いです。
液相インクルージョンの色
ほとんどの溶液は無色ですが、時には、酸化鉄 などの不純物の介在に因り褐赤色を帯びることもあり、顕著な場合には、宝石の地色に影響する可能性もあります。
③気相インクルージョン
気相インクルージョンは一般には気泡 と呼ばれます。
天然結晶における気相物質は、同生的に取り込まれた液相から温度低下に伴って出現したものであり、 二相 あるいは三相インクルージョン のように必ず液相と共存していて、単一相として残留することはあり得ません。もし、結晶中に気泡が単独で観察されたなら、合成石 あるいは人造石の可能性を考えるべきです。
しかし、非品質ガラスの場合には、天然起源、人工起源いずれ にも気泡が単独で包有される。
気泡のサイズはさまざまですが、完全な球形をなすものが多いです。何らかの要因で歪んだり、引き伸ばされたり、さらにはいくつかの気泡が連なった奇 形も見られますが、レリーフが高く明瞭な輪郭を示すのが、気泡に共通する特徴です。
そのため、ある程度 の大きさになると、同心円状の二重の輪郭が観察されこともあります。
気相インクルージョンの成長構造
結晶の構造的な不均一性には、成長の段階で生じたものと成長終了後に生じたものがあり、実際には原子サ イズのオーダーまでが含まれます。ここでは、低倍率下で観察できる不均一性をとりあげ、成長現象としてまとめてあります。成長現象にはさまざまな成因が考えられますが、ほとんどが結晶構造と密接に関係していて、方位を見定めることは観察の上で重要なポイントになります。
気相インクルージョンの成長過程で生じた不均一性
結晶成長は必ずしも一様ではなく、母液の一時的な不足や組成変化など、環境条件の影響で、速度を変えな がら断続的に繰り返され、そのため取り込まれる不純物の種類や量そして格子欠陥の分布も成長速度に応じて変化します。これが結晶内部に観察される種々の不均一な色分布や成長稿などの主因です。
包括的には累帯構造と呼ばれる、結晶の中心から 外側に向かって繰り返される縞模様は、この典型的な 例です。累帯構造は、トルマリンのように軸を中心として色が変化する様が肉眼でもはっきりと認められるものもありますが、通常カットされた宝石に見られるのは黒帯の一部です。
そのため宝石学上では形態的に分類されるのが普通です。結晶構造に沿って表れる直線的な濃淡の縞目は、色带、不均一性が不鮮明なレリーフの差として帯状に現れた場合には成長稿 、そして単独の細い条 線であれば、成長線 表現されます。
不均一性の特異な例で、まるでシロップを流し込んだ ようなモヤモヤとした印象の不規則な色分布には、糖蜜状組織 Treacle の名が付けられています。
直線的な分布を示すことが多い天然石の色むらの中では珍しいタイプで、結晶が複雑に成長と溶解を繰り返したことを物語る成長構造です。また、結晶は成長過程で双晶を形成することもあり、 双晶の接合部分のわずかな原子配列の乱れが双晶面 として表れます。双品の様式によっては、一 定の角度で交差したり、複数の双晶面が平行して繰り返されます。方向によっては、双晶面のエッジが単に細い条線に見えるのみで、成長線との識別判断が 難しいかもしれません。
気相インクルージョンの成長終了後に生じた不均一性
成長現象の中でも、実際には結晶成長が終わった後に生じたものがあります。プ ラインド状双晶面がある。これは 主としてコランダムに見られる平行に繰り返される双品面で、成長終了後に受けた機械的変形により生じたもので、変形を受ける際に、双晶境界に不純物が凝集してくることが多いです。
ルビー・サファイヤ(コランダム)の特徴
コランダムはカラー・バラエティが豊富な宝石で、中でも赤色のルビーと青色のサファイアは有名です。
さまざまな変種が広く知られるようになり、赤色のルビー以 外はすべて色名を冠して、サファイアと呼称されるのが一般的です。
新タイプの合成石あるいは各種処理石などの増加により、コランダムの鑑別はますます難しいものとなっている。日常的に行われるようになった宝石処理の影響により本来の内部特徴に大きな変化が見られるようになった一方で、 精巧な合成石が多数製造されており、両者の識別には詳細な観察が必要とされています。
インクルージョンおよび内部構造はそれぞれの地質環境に影響する
鑑別上で重要なデータであるインクルージョンおよび内部構造はそれぞれの地質環境を反映したものであり、産状ごと に特徴が異なります。
全く別の国や離れた地域でも 地質環境が同じであれば、どちらから産出される宝石 にも共通の内部特徴が見られることもあります。
天然コランダムの内部特徴
コランダムには数種の針状結晶が包有されます。
宝石の観察だけでは、厳密な鉱物種の同定が困難な場合もありますが、それぞれの色調、分布そし てレリーフなどの視覚的な特徴を把握しておくことは、 鑑別において不可欠な要素と思われ、詳細に述べるために他の固相インクルージョンとは分けてある。これらのインクルージョンの実態は未だ明らかではなく、ルチルやヘマタイトなどの針状結晶とも、中空のキャビティとも言われるが、ルーティンの宝石鑑別にとっては個々の物質的な解明よりも、全体的な分布特徴の観察が重要な意味をもつはずである。
① シルク・インクルージョン
リチャー酸化チタンの微細な針状結晶で、コランダムに含まれる不純物元素である酸化チタンは、酸化鉄との電荷移動によりブルー・サファイアの青色の着色原因となることはよく知られています。
しかし長い地質学的なタイム・ スケールの中で離溶して、結晶構造に規制された偏析を生ずると無色あるいは白色のシルク・インクルージ ョンとなります。
そのため、後生インクルージョンの特徴 である、C軸に垂直な面上で(1010)面に平行な60/120 の3方向に交差して積層する規則的な分布が見られます。
シルク・インクルージョンは配列の規則正しさに加えて高い屈折率を有することからレリーフが明瞭で、ピン・ポイント照明下では、キラキラと輝いて見えるのが特徴です。
低倍率下でも明瞭に観察される細く伸びて互いに60°/ 120に交差する針状結晶は、未加熱のコランダムに包有されるシルク本来の最も典型的な形態で、太く短いタイプも一般的です。
ごく細かいシルクの粗密の繰り返しは、主結晶の構造に沿った帯状の外観を示します。さらにこれらが部分的に凝集している場合には、 低倍率下で白いクラウド状の塊に見えます。
スター・ルビーおよびサファイアのアステリズム は、シルク・インクルージョンの密度高い包有によるものです。軸に対してカボションのドームが垂直になるようにカットした場合、光の反射効果により、60°/ 120°で3方向に交差するシルクの配列と直角に6本の 星彩線が現れます。
アステリズムの中心がドームの頂点に位置していて、すべての星彩線が均一でシャープなスター石は高く評価されます。
②針状インクルージョン
ケニアからタンザニアにわたる東アフリカでは、色の鮮やかなルビーをはじめ各色のサファイアが産出され、とくにサファイアには微妙な中間色が多いことも特徴です。
東アフリカ産のコランダムにも、離溶により晶出した ほとんど無色のルチルの針状結晶がしばしば包有されますが、規則正しい角度で三次元に分布している点で、 平面上の3方向で交差して積層するシルクとは区別されます。
ある1方向の針状結晶の発達がとくに顕 著で、他の2方向が短い場合には、チューブ・インクルージョンと誤認されやすいですが、詳細に観察すれば3 方向の分布が明らかになり、コランダムにはチ ューブ・インクルージョンは存在しません。
③ベーマイト・インクルージョン
タイ産や東アフリカ産のルビーおよびサファイアでは また、白色の三次元で交差するペーマイト [AIO(OH)]の 針状結晶に遭遇することも多いです。一見、上述のルチル 針状結晶に酷似しますが、これらは細く伸びて必ずルビ 一中を貫通しており、時に毛羽だったような部分を伴うことがあります。また最も重要な点は、機械的変形に起 因する変形双晶(ブラインド状双晶面)に沿って、菱面 体面 (1011)に平行に分布することであります。
④ ダスト・インクルージョン
シルクとよく似た、黒色または褐色の微小イン クルージョンが包有され、その暗色の外観からダスト・インクルージョンと呼ばれます。コランダム結晶が成長する地質環境から主結晶だけではなく 包有物にも多くの鉄分が供給される結果、ルチルでは なくヘマタイト [Fe₂O,] および/またはイルメナイト [FeTiO₂] の微小結晶が晶出します。ダスト・インクルー ジョンはコランダムであることを証明する特徴となりますが、多数の包有はカット・サファイアの色調を低下させることので、宝石にとってはあまり歓迎されるものではありません。
シルク・インクルージョンと同様、微細な針状のヘマ タイトおよび/またはイルメナイトの密度高い分布は アステリズムの原因となります。ただし本来のボディ・カ ラーはイエロー、ゴールデン、グリーン系のサファイ アであり、包有される多数のインクルージョンの色に より、黒褐色を呈するスター・サファイアに見えます。
固相インクルージョン ― 結晶
① スタッビィ結晶インクルージョン
スタッビィ結晶インクルージョンはコランダムには各種の鉱物結晶が包有されますが、初生インンクルージョンの明らかな特徴です、蝕融による丸味を帯びた形状を示すものも少なくなく、多くは無色透明で、中には有色および黒色の結晶も見られ、サイズはさまざまです。さらにいずれも自形を失っているために鉱物種を限定することはできませんが、その外観が切り株のような印象を与えることから、スタッピィ結晶インクルージョンと総称されます。
②ジルコン・ヘイロー・インクルージョン
丸みを帯びた透明結晶の周囲に広がる後光状のクラッ クのために、低倍率下ではまるで昆虫が翅を広げたように見える特異な形態は、ジルコン・ヘイロー・イン クルージョンと称されます。
これはジルコン結晶がコラ ンダムに取り込まれた後、長い地質学的な年月を経て進行するメタミクト現象に起因する構造変化に伴って体積が膨張するために、周囲を圧し割る結果と言われます。しかし他の鉱物結晶であっても、何らかの後天的な熱履歴を受けた際に、主結晶の熱膨張率との差から同様のクラックを生じた可能性も有り得ます。加熱エンハンスメン トの影響により結晶の周囲にテンション・クラックが 発生するケースも増えており、これだけで 産地を限定することは避けるべきです。
③液膜を伴う六角形インクルージョン
タイ産およびモンタナ産のルビーあるいはサファイア には、平面状に広がる液膜インクルージョンを伴う、 無色または黒色の六角形インクルージョンが一般的です。中心の六角形については、ピロータイトをはじめとする鉱物結晶か、ネガティブ・クリスタルのいずれの可能性も考えられます。またほとんどがやや丸みを帯びており、小さなものはわずかに歪んだ球形に見えるかもしれません。
周囲を必ず液膜インクルージョンが 取り巻いているのが特徴であり、メッシュ状あるいは ループ状を描く液膜は、ほぼ底面 に沿って広がっていることが多いです。
このような形態的および分布の特徴から、液膜自体は 後生インクルージョンと判断されるます。
④自形を示す結晶インクルージョン
ルビーおよびサファイアにはさまざまな結晶インクル ージョンが見られるが、実際に鉱物種を同定するためには個々に組成分析および回折が必須であり、拡大検査における所見から決定できるケースはごく限られています。
液体インクルージョン
液体は天然の結晶中で最も普遍的なインクルージョン であると言えます。それだけに特別なインクルージョン がない場合にも、起源の判定には欠かすことのできな い重要な手掛かりとなるが、逆に、一般的な分布を示 す液体インクルージョンだけでは、産地や鉱物種を決定することは困難です。液体インクルージョンの分布形態は千差万別で、時には他と明らかな差異を示すタイプも存在します。
- フィンガープリント・インクルージョン
- ネガティブ・クリスタル
成長構造
①糖蜜状組織
ほとんどが直線的かつ結晶構造に規制された天然の成 長構造の中で、不規則な脈理に似た成長線、あるいは 赤色中の無色の色むらとして観察される糖蜜状組織 は、非常に珍しいタイプと言えます。それはまるでシロ ップを流し込んだようにモヤモヤとして見えることか らこのように呼ばれています。糖蜜状組織は成長と熔融が繰り返された特殊な結晶の成長履歴を物語る特徴であり、接 触変成岩を起源とする両者の産状の類似性を示すものです。
②ブラインド状双晶面
天然コランダム中に観察される平行に分布する双晶面 は“ブラインド状”と形容されます。
これは変形双晶の1 タイプで、機械的な歪みに因り、菱面体面 (1011)に 沿ってすべりが起こる結果生ずるものです。中には、 87°93′の角度で交差する場合もあります。
この種の双晶面はアルカリ玄武岩および広域変成岩起 源に出現率が高く、したがってとくにタイ産あるいは 東アフリカ産のルビーおよびサファイア、そしてオー ストラリア産サファイア中でしばしば見られます。ブラインド状双晶面は、エッジ・オン方向では石を横 切る平行な線として見えるが、少し傾けると同じ方位 に配列して輝く面に気付くはずです。クロス・ニコ ル下ではより明瞭で、双晶面で生ずる干渉が観察できます。 また、これらの双晶面に沿って、ベーマイトの針状結 晶が発達しているものも多いです。
③累帯構造
自然界における結晶成長を取り巻く環境は常に変化しています。そのため、均一な成 長速度が維持されることは容易ではありません。そして不純 物あるいは結晶欠陥などの分布や密度は、成長速度の 変化と密接に関係しており、その結果、不均一性が結 晶の中心から外側へ向かって帯状の分布をなし、累帯構造を形成します。累帯構造は、低倍率下ではわずかにレリーフの異なる 成長縞、あるいは明らかに色が異なる色帯として観察されます。
◆成長縞 Growth band
結晶の中心から外側に向かって累帯構造が形成される 結果、成長縞が現れる。平行に配位する点ではブライ ンド状双晶面と類似するが、エッジが不鮮明で石を傾 けてもレリーフが変化しない場合は、同生的な成長縞 である。
あるいは結晶構造に沿って120°/60°の角度をもって 分布するものもある。
さらに結晶成長の過程で環境が著しく変化した場合に は、非常に複雑な成長縞が観察される。中でもベトナ ム産ルビーには多数の成長縞がしばしば見られるが、 糖蜜状組織との共存はきわめて特徴的です。
「この記事の主な参考書籍・参考サイト」
- 「宝石 小宇宙を科学する1 主要宝石の世界」著者志田純子/発行全国宝石学協会
まとめ
この記事では、インクルージョンや成長構造など、 宝石の内部特徴に関する解説をしました。
インクルージョンからわかることは多くあります。しかし宝石は相対的に知ることが重要です。
ルビーの品質について詳しくはこちらで解説しております。