潜在力のある原石のカット研磨【ルビーの原石を見分ける5つの要素】

地球が生み出した鉱物に完全なものはありません。すべてが不完全ですが、そのなかに切断と研磨によって美しさを引き出せる原石が存在します。ここでは美しさをひきだされたもの【素材としての宝石】と宝石の原石について「価値がわかる宝石図鑑」著者:諏訪恭一/発行:ナツメ社から引用して解説していきます。

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潜在力のある原石

ルビーの原石

宝石は、地球が育んだ潜在力ある原石を、人が見つけて美しさ引きだしたものです。

人が一から美しいものを作り出したのではなく、地球が創ったものから、研磨と仕立ての工夫によって美しさをひきだしたのです。

原石に入り込んだイメージで5つの要素を考える

ダイヤモンド研磨地を訪れた際、カッターから「石に入り込んだイメージで5つの要素を考え、仕上がりを想定して原石の値付けをする」と教わりました。

原石を見分ける5つの要素は相互に結びついており、1つでも大きく欠けると潜在力を損なわれます。(宝石の可能性がなくなる)

その要素は以下の5つです。

  1. 大きさ
  2. 透明度
  3. 形(Shape)
  4. 色(Color)
  5. 不完全性

①大きさ

宝石は身に着けて楽しむものなので、適度な大きさであることが重要です。たとえばラウンドブリリアントカットのダイヤモンドの場合、1.5~2ctぐらいが最もこのましいサイズとされています。それ以上大きくなるとリングを指にはめたときに品が感じられません。ダイヤモンドやルビーの原石は大半が小粒であるため、大きいものほど価値があります。逆に、アクアマリンやトルマリン、アメシストは大きな原石がよくとれるため、サイズが大きくても価値はさほどあがりません。

②透明度

透明度の高い原石を研磨して面とつける、宝石らしい強い輝きときらめきが生まれます。とりわけ4大宝石(ダイヤモンド、ルビー、サファイヤ、エメラルド)に顕著です。一方、トルコ石やラビスラズリのように透明度を低い石の場合は、面をつけずにカボションカットにして、石そのものの色や光沢、模様を生かします。

③形

宝石の形は、原石の形状によって決まります。原石を無駄に削って目減りさせないよう、ダイヤモンドはできるだけ原石の形に合わせたシェイプにカットするのが定石です。その意味では、自然が宝石の形を決めているともいえます。

④色

色は「色相」「濃淡」「彩度」の3つに分けて考えます。

  • 「色相」は色合いのことで、同じ石でも産地によって微妙に異なります。たとえばミャンマー・モゴック産のルビーは純色に近い赤が多いですが、モザンビーク産のルビーはややオレンジ味を帯びた赤みが特徴です。また、アンダリュサイトやアイオライトのように、見る角度によって色が異なる「多色性」を持つ石もあります。
  • 「濃淡」は宝石の種類にもよりますが、基本的には石の粒が大きければ濃い方が、小さければ若干淡い方が美しく見えます。
  • 「彩度」は、純色の度合いです。濁りが内ほど鮮やかであり、彩度の高低が美しさに大きく影響します。

⑤不完全性/インクルージョン

傷や欠損、インクルージョン(内包物)は、天然石ならではの特性です。宝石としての美しさを大きく損ねる場合には、カットや研磨によって取り除きます。ダイヤモンドは1960年代までは可能な限り研磨の目減りを抑えるために、ガードルまわりに原石の肌(ナチュラル)を残していることがあります。そこに見られるトライゴンは欠点ではなく、宝石の魅力ある不完全性と考えられます。

原石の潜在力を引き出す

ルビー研磨

カッターはこうした5つの要素を勘案し、シュミレーションを行い、最も色みや輝きがよいと思われ、かつクラック(内部の亀裂)やインクルージョンが目立たないテーブル面のポジションを決めます。透明度の程度に応じて、ファセットとカボションのどちらにするかも判断します。この工程は、宝石の仕上がりを大きく左右し、カッターのセンスと技量が問われます。

モゴック産ルビーに見る原石の潜在力

ルビーの原石

原石の潜在力は、どのようにして引き出されるのでしょうか。適度な濃さの赤色を特徴とするミャンマー産・モゴック産(ナヤン産)ルビーの原石を例に解説します。

左の六方晶の原石は、上から見たときには一見、ルビーらしい赤色をしていますが、水平に寝かして横から見るとオレンジとピンクに発色します。

そうした2色性がでてしまっては、ルビーとしての美しさや品質は損なわれ、「色」という潜在力を引き出したことにはなりません。しかし、横にしたまま目減りの少ないクッションカットを施し、オレンジがかかった「パパラチヤサファイア」として扱うことは可能です。(図A)。「大きさ」を生かすための、ひとつの考えかたと言えます。

次に、原石を垂直に立て、上面をテーブルにするカットです。(図B)。真上から見ると2色性は発露せず、モゴック産らしいきれいな赤紅色に見えます。そこで、上面と水平に2~3個にカットすれば、ラウンド形あるいはクッション形に仕上げることができます。ただし、1粒1粒が非常に小さくなってしまうのが難点です。

カットの目減りを最小限に抑えつつ、美しい赤色を出すのであれば、原石を垂直に立て、真上からではなく斜めにテーブル面をとるカットが考えられます(図C)。2色性がでないようにする、軸を30度から40度ぐらいまで倒すのがポイントです。垂直軸を上から見た場合は真円でも、角度がつくことにより、ルビーの輪郭は楕円形(オーバルカット)になります。

キューレットがテーブル面の真下ではなく少しずれた場所にあるオーバル形のルビーは、それほど珍しくありません。左右非対称な形状にカットする理由は、天然無処理で美しい希少なミャンマー産ルビーの結晶を、なるべく大きく残すためです。

仕立ててしまえばガードルから下は地金にかくれるため、見た目の美しさが大きく損なわれることになりません。加えて、キュレットのズレは、天然石の証ともみなされます。「大きさ」と「美しさ」という2つの条件をふまえ、原石の潜在力を最大限に引き出すには、このカットが最適だと考えられます。

研磨するときは、原石の潜在力の範囲内で行うことを余儀なくされます。原石の潜在力は「個性」です。個性が研磨後の姿を決めているといっても過言ではありません。

(図A)結晶の軸に対して水平にテーブルをとれば目減りは少ないが、結晶の2色性が出て、角度によりオレンジやピンクが強い色調になってしまいます。

(図B)結晶の軸に対して垂直にテーブルをとれば、ラウンド形あるいはクッション形の美しいルビーに研磨できるが、粒が小さくなるのが難点です。

(図C)結晶の軸に対して30度~40度の角度をつけてテーブルをとれば、フェイスアップでみた場合にキューレットが真下にはないものの、大きさと色の両方を最大限に生かせる。

原石のクオリティスケール

ルビー原石のクオリティスケール

モゴック産ルビーの原石の研磨後の品質を判定するための物差しです。「濃淡」を縦軸、「美しさ」を横軸とし、計35マスの中のどこに該当するかを確認できます。産出する原石の大半は濁った黒褐色であり、左下に示したイメージのように、マスから外れてしまうものがほとんどです。しかしマスから外れたものでも加熱すれば美しくなるものもあります。加熱ルビーに市場はる程度の価値を認めています。

原石の枠

産出する原石の品質の範囲。大半はAQにも満たない濃すぎるもの、透明でないもの、不完全なもので、そのまま美しさを引き出すことが難しく一部は処理に回される。

ルビーの出現率を調べるためにミャンマー北部のNam-Ya鉱山へ

ミャンマー産の天然無処理で美しいルビーは、とても希少性が高く、文字通り「宝探しをして手に入る宝石」です。

モリスは、世界で初めてミャンマー北部のNam-Ya鉱山で4年間採掘を行い出現率を調べ、日本宝石学会で発表した宝石商です。

天然無処理で美しい1ctを超えるルビーが見つかる確率は、(天然無処理で使える原石の中))2200個に1個の割合でした。

採掘されたルビー

ジェムクオリティ(最高品質)の天然無処理で美しいルビーが見つかるのは、何千個に一つ。

需要と供給のバランスで見た場合、GEMクオリティーのルビーの価値は驚くほど高くなります。

お宝として十分な美しさを持つ「GEMクオリティ」は右上の小さなトレイに入っているルビー原石のみです。

自然の産物である天然宝石は、人の都合で産出量も変えられないし、資源枯渇し無くなったら、それで終わりです。ルビーの価値は、原石の段階で決まっています。

 

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