宝石は、地球が育んだ潜在力のある原石を、人が見つけて美しさを引き出したものです。大前提に人が一から美しいものを作り出したのではく、地球が創ったものから、研磨と仕立ての工夫のよって美しさを引き出したことを忘れてはいけません。
ルビーやアメシスト、エメラルド、ペリドットは紀元前から宝石として珍重されてきましたが、当時はすべてカボションカットでした。
ダイヤモンドは今から約2800年前に発見され、14世紀後半にカット技術が発明されて以降は、人の手を介して、様々なカットがほどこされてきました。
ここでは、宝石のカットについて「価値がわかる宝石図鑑」著者:諏訪恭一/発行:ナツメ社から引用して解説していきます。
潜在力のある原石を見極める5つの要素
貴重な宝石の原石をカットする前に石に入り込んだイメージで、5つの要素を考えて、仕上がりを想定して原石の値付けを決めることが重要です。
この工程は、宝石の仕上がりを大きく左右し、カッターのセンスと技量が問われます。
潜在力のある原石を見極める要素は以下の5つです。
- 大きさ
- 透明度
- 形
- 色
- 不完全性/インクルージョン
潜在力のある原石を見極める要素について詳しくはこちら「ルビーの原石を見分ける5つの要素」で解説しています。
宝石のカットはどのように決まる?
宝石をどうカットするかは、宝石の硬度や耐久性、透明度、価値の有無・優劣、デザインなど勘案されます。
カッターは本来、希少性や原石のサイズ、形状からカッティングスタイルを決定し、最終的にシェイプ(輪郭・外形)を選びます。
宝石のカットの表記
一般的に宝石のカットは以下の順番で表記されます。
- シェイプ
- カッティングスタイル
- 面の取り方
たとえば丸い輪郭でクラウンとパビリオンを持ち、面が58個取られたダイヤモンドの場合
「(シェイプ)ラウンド、(カッティングスタイル)パビリオンカット(面の取り方)ブリリアントカット」となります。
カットされた宝石ではパビリオンカットが多いため、「パビリオンカット」の表記が省略され、ラウンドブリリアントカットと示していることも多いです。
1シェイプ(輪郭)
シェイプは宝石を上面(フェイスアップ)から見たときの形です。
丸みを帯びたランドエッジと直線的なストレートエッジに分類できますが、どちらにも属さないイレギュラーも存在します。
ランドエッジの代表は円形のラウンドや楕円形のオーバル、舟形のマーキスなどが挙げられます。シェープな印象のストレートエッジはオクタゴン(八角形)やトライアングル(三角形)などがありますが、角がかけやすい欠点もあります。
シェイプは宝石の輪郭です。一般的なシェイプをご紹介します。
- オクタゴン
- レクタングル
- スクエア
- トライアングル
- ラウンド
- オーバル
- ペア
- マーキス
- トリリアント
- ハート
- クッション
2カッティングスタイル
カッティングスタイルは、種類や透明度、内包物の有無などを総合的に判断して決めます。
現代ではダイヤモンドなどの硬度が高い宝石と明度が高い宝石は、内部反射や分散光を活かすことができる面を取るカット「ファセットカット」が主流です。
- パビリオンカット
- カボション
- スラブ
- ビーズ
- ブリオレット
- タンブル
- ローズカット
宝石の歴史を見ると、原石の形状を生かしたカットが多くあり、このようなに磨き上げるものが大半でした。
ここでは、形の特徴を解説します。
- タンブル:tumbleとは、転がるの意味です。河原の小石に見られるように角が取れ、丸みを帯びたスタイルです。元々は人が唯一手を加えない、自然のままのカットです。現在は研磨材と原石を一緒に振動させて角を取りツヤを出しています。
- カボション:丸い山形に整えられたスタイルで、硬度が低い半透明や不透明の石に施すことが多いです。浮彫りが施されることもあります。
- スラブ:平面に磨いて整えたスタイルです。伝統があり、沈み彫り(インタリオ)が施されることが多いです。
- ビース:立体に荒削りした後、器械や手作業で丸くしたカットです。穴を開けてネックレスなど、連にすることが一般的です。
- ローズカット:バラの花弁が折り重なったようなドームに三角の面を取ったカット。裏側が平面で中世ヨーロッパで流行しました。
- ブリオレット:涙形の原石をちいさな面で囲むカットです。他のカットに比べ手間がかかります。
3面(ファセット)の取り方
「パビリオンカット」では、クラウンとパビリオンの面の取り方にさまざまな種類があります。
原石の形や色を勘案し、どう面を取っていくかは、宝石の特性によって決まります。
テーブル面を大きく取り、最高の色合いになる厚みと、内部反射による輝きを最高にするパビリオンとクラウンの配置を考慮しつつ、石を大きく見せながら、美しさを最大限に引き出すように設計されます。
- スター(ブリリアント):テーブル面に沿って三角の面を8面持ちます。
- ブリリアント:クラウン32面、パビリオン24面にテーブルとキューレットを合わせた計58面、研磨された面を持つ画期的なカットです。
- ステップ:ステップは階段の意味です。四角形のテーブル面を持ち、切子面が正方形または長方形になります。ガードルに対して平行な面を持ちます。
- バフトップ:上部がドーム形のカボションで福良時があり、下部に面を取ります。
- チェッカーボード:名称の由来はチェスボードから。カット面が正方形の市松模様のカット
- プリンセス:20世紀後半に発明されたカットです。四角形のフォルムを持ち、ブリリアントに近い面の取り方です。
ブリリアントは、「きらめく」「見事な」という意味があります。ダイヤモンド以外の宝石にも用いられます。
宝石の硬度によって選択されるカットが違う
一般的に硬度7以上で透明に仕上がる物はファセットカット(ブリリアント/ステップカットなど)に、7未満のものはカボション、タンブリング、ビーズなどにカットされます。
宝石の硬さや硬度について詳しくはこちらから
装身具には最適な宝石のサイズがあるので、大きすぎるものはいくつかに分割して仕上げるものもあります。ルビーは特に効果で粒が小さいので、可能な限り歩留まりがよく、価値が高まる選択をします。
希少な宝石ルビーは他の宝石のカットとは違う
どのようなカットを施すのかは宝石によって違います。
希少性の高い、天然無処理で美しいミャンマー産ルビーの場合、結晶そのもので価値が決まります。基本的にカットはせずに、研磨だけで潜在的な美しさを引き出します。
ミャンマー産天然無処理のような希少な宝石の場合は、少し歪んだ形のルビーがあったとしたら、それは貴重な原石の結晶の生地をなるべく大きく残そうとした跡です。
美しさに悪影響を与えない限りは、そのルビーの個性として認識します。
品質判定をする時は、そのプロポーションを基準となるスタイルに整えた場合に、どのくらいのサイズになるかを割り出した上で、クオリティスケールを使って判断することになります。
ルビーをカット研磨の際、「原石の生地不足」でいつも悩みます。もし、ルビーのキューレット側に生地不足を見つけた時には、それは、無処理の可能性が高いかも知れません。
「原石の生地不足」とは、ルビーを研磨する際に、なるべく大きく結晶を残そうとした結果、残された不完全性です。
無色透明、綺麗なカットが良いとされるダイアモンドとは違いルビーの場合、元々あった原石の肌が残ったり、表面に現れた内包された他の結晶などは、天然無処理で美しいルビーには多くあります。
天然無処理で美しいルビーの生地不足をみて「キズ」と表現する人がいたら、 プロの宝石商ではありません。
モリスがルビールースを研磨したからこそ気づいたこと
ルビーを理想に合わせて削り取って完全な姿にするのか?そのまま残すのか?と考える時、多くの場合は、そのまま残します。
完全な形にするためには、全体的に削り取る必要がありますが、仕上がりのサイズは小さくなってしまいます。
私たちは、地球が何億年もかかって育んだ貴重な宝石ルビーをありがたく使わせてもらって、未来へ受け継ぐことが大切だと考えます。
モリスのオリジナルカットの「シンギュラリティカット」はこれまでの、人が決めていた宝石の形を、自然が決める「振り子の方向が逆転した一瞬」、ルビーは世界にひとつだけしかない個性を持った形となるという意味を込めて、「シンギュラリティカット」という名前にしました。
「シンギュラリティカット」について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
まとめ
この記事では宝石のカットについて解説しました。
最後に、鉱物を磨いて宝石に仕上げるには、一つ一つの原石を観察して「どんな形状にするか」「輪郭はどうするか」「面の取り方はどうするか」を考えて、さらに宝石の硬度、耐久性、透明度、価値や人気度を考慮して決めます。
形状、輪郭、面の取り方の組合わせは数百に及び、プロポーション、縦横の比率、不定形まで含めると、カットの仕上がりは無数にあります。
大自然の造形美である宝石ルビーの原石には、そのひとつひとつに個性があり、私たち人間と同じように、同じものは2つとありません。
個性が2つ以上あれば、そこには必ず相性が生まれます。相性は、良し悪しではなく「好きかどうか?」という個人的視点です。
プロの宝石商は、宝石の品質判定をしっかり行い、情報を正確に伝え、安心して選ぶことができる環境を整える立場です。相性がいいルビールース見分けるポイントは、持つ人が「好きかどうか?」で選ぶことです。