同じ宝石ルビーであっても産地による違いがあり、宝石としての価値も違ってきます。
これは産地によって宝石が育つ環境が違うためです。
特定の地域や鉱山でしか産出しない色調や彩度などはルビーとして高く評価され宝石ルビーとしての価値に影響します。
この記事では、ルビーの産地知名度ランキングについて解説します。
ルビーの産地知名度ランキング
ルビーの産地知名度ランキングでは、「ルビーの知名度の高い産地」と「希少な宝石を産出している地域」を紹介します。
「ルビーという名前だから、どこで産出しても同じだろう」と考える人もおられますが、産地によって、それぞれ特徴があり宝石としての価値は違います。
知名度が違うことは、産地ごとの需要と供給のバランスに大きく影響を与えるからです。
高級美術品が出品されるサザビーズやクリスティーズなどの国際的なオークションで、宝石ルビーがメインストーンになっているジュエリーが紹介される場合には、かならず「~産ルビー」と産地がアナウンスされ、落札価格が大きく変わります。
ルビーは産地によって宝石としての評価に差があります。気になっている方はルビーの産地別ランキングをチェック、参考にしてみて下さい。
- ミャンマー産(モゴック・ナヤン)
- ミャンマー産(モンスー)
- モザンビーク産
- タイランド産
- スリランカ産
- その他のルビーの産地
1位:ミャンマー産(モゴック・ナヤン)
世界で最も品質の高いルビーが産出されることで知られており知名度が最も高いのはミャンマー産です。
モゴック(Mogok)地方、また2000年から正式に鉱区として認められた最北部カチン州にあるナヤン(Nam-Ya)地方も同じように高品質のピジョンブラッドルビーを産出しています。
現段階では、鑑別書では、「モゴック産またはナヤン産」というように表示されています。
この2か所からピジョンブラッドルビーが産出します。その色彩と透明度は他の産地と比較しても群を抜いています。
ミャンマー産ルビーが特別である理由は、結晶した環境にあります。
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- カンブリア紀に海の中で生きた生命とそのカルシウムが海底に堆積していたこと
- 9000万年前にインドが南極を離れて1年間に15㎝のスピードで北上し始めた
- インドプレートがブルドーザーのように海底の堆積岩を北に押し上げた
- 5000万年前にインドプレートとユーラシアプレートが衝突し始めて、インドプレートは地下深くへ沈み込んでいった
- クロム(Cr)が多く、鉄(Fe)が少ない場所、地下40㎞で、マグマと接触し、変成したドロマイト(大理石)を母岩としたルビーが結晶した
- いまだインドプレートは、1年に5㎝北上しており、その力によって、ミャンマーの数か所で地表に現れるスポット(モゴック、ナヤン、モンスー)ができた。
この6つの条件が奇跡的に揃ったこと、そしてその条件は地球上に一つしかないことが、ミャンマー産ルビーを特別な存在にしています。
そして、ピジョンブラッドルビーの条件の一つであるフローレッセンス(蛍光性)について、ルビーの赤色に関係する元素が関係しています。
着色要因であるクロム(Cr)と鉄(Fe)の割合は、地表から15㎞~20㎞までは、鉄が多く、20㎞以深ではクロムが多い地層です。
ミャンマー産ルビーは、地下40㎞の深いところクロム(Cr)の多いところで結晶したため、鉄分がほとんど含有されておらず、ほぼクロムだけで赤く発色します。
ミャンマー産ルビーが紫外線に強い蛍光反応を示すのは、この微量元素の割合の違いによるものです。
逆に、鉄を多く含む産地のルビーは、その蛍光反応が弱い、または全くありません。
その特別な蛍光性を持つルビーをピジョンブラッドと呼び、ピジョンブラッドルビーはミャンマー以外では見つかっていません。
<コラム>
ミャンマーのモゴック鉱山で1990年代後半に取材を重ね、ルビー、サファイアの鉱床の研究、コランダムの加熱処理を研究していたニューヨーク市立大学Ted Themelis博士と数回ミーティングを持ちました。
また2003年にはタイランドのチャンタブリでお会いした時には、ルビーとサファイアの加熱処理について色々と情報共有いただきました。
ミャンマー(その当時のペグー王朝)のルビーについての歴史が記されています。引用ここから>1505年には、ポルトガルのドゥアルテ・バルボサ(Barbosa)は、まず最高のルビーは第三のインド(恐らくモゴックのこと)で結晶したモノが、ペグーの川で集められます。これらはとても品質の良いルビーです。
Ted Themelis博士の著書
「Mogok Valley of Rubies and Sapphires」引用ここまで
少なくとも16世紀には、欧州からミャンマー産ルビーを求めて来訪していたこと、そしてそのルビーが特別だということが分かっていたようです。
ヨーロッパ人がミャンマー産ルビーについて記した一つの説ですが、原産地ミャンマーでは、ルビーはお釈迦様の宝石だとされており、そうすると2600年前にはルビーの存在が分かっていたはずです。
そして5世紀または6世紀頃にはルビーを採掘していたとされる説もあり、中国の皇帝にプレゼントしていたそうで、宝石ルビーに関しては、アジアが先進国だということが分かります。
2位:ミャンマー産(モンスー)
ミャンマーでは、もう一つのルビー鉱山モンスー(Mong-Hsu)があります。
モゴック、ナヤンのルビー鉱山では、天然無処理で美しいルビーが産出されますが、このモンスー鉱山は、主に加熱処理をして美しさを改良するための原石が産出されます。
1980年代後半から、このモンスーで産出しタイランドで加熱されたルビーが「ミャンマー産ルビー」として世界中に販売されました。
原石の状態で青色から黒色に見える色帯があり加熱してその青味を取り除く処理は、主にタイのバンコク、チャンタブリで行われました。
現在のように処理の有無を見分ける分析技術が発達していなかったため、天然ルビーとして流通しました。
その時、鑑別書のコメント欄には、「ルビーには一般的にエンハンスメントが行われています」という記述がありましたが、エンハンスメント=改良のことですが、紛らわしいため、現在は使われていません。
現在は、「鉱物種:天然コランダム」「宝石名:ルビー」「ルビーには一般的に加熱による色の改良がおこなわれています」とコメントされています。
一部の鑑別書には、「加熱された痕跡は認められない」とコメントされることがあり、「非加熱ルビー」という商品名で流通していますが、信憑性に疑問が残ります。
心配な場合は、スイスのグベリン宝石研究所Gubelin Gem Labまたは、SSEFの分析結果報告書を取得する、または、品質保証書の発行をリクエストしてみましょう。
ミャンマー産でも、モゴック産、ナヤン産ルビーに紫色、黒色の色帯が結晶の中にあることは殆どありません。
ルーペで確認して、それが見えたらモンスー産ルビーの可能性は高いといえます。
3位:モザンビーク産
モザンビーク産ルビーは2008年に開発された新しい産地で、新しいルビーの産地として急速に市場に出回っていますが、私自身は、モザンビークへ行ったことがありませんので、ディーラーから聞いた話、中央宝石研究所の北脇博士のレポートの情報からお伝えします。
他の産地のルビーと比べるとミャンマー産ルビーと見た目がよく似たものもあり、非常に品質が高いのが特徴です。
スリランカの会社が大規模な採掘を行って一気に市場に広がっていき、ルビーの原産地ミャンマーにも2010年頃から見かけるようになりました。
モザンビーク産ルビーの母岩は、アフリカ東部の造山活動でできた変成岩、鉄色、または黒色の岩石が混じった片麻岩です。
中央宝石研究所の北脇博士のレポートでは、ルビーの原産地は、大きく分けて古いものから「始生代変成岩系列29.7億年~26億年前」、「汎アフリカ造山運動7.5億年~4.5億年前」、「新生代ヒマラヤ造山運動4500万年~500万年前」、「新生代アルカリ玄武岩6500万年~500万年前」の4つに分けられるとされています。
モザンビーク産ルビーは、汎アフリカ造山運動で結晶した広域変成岩起源です。
紫外線に当たった時に赤色に反応するものも多く、希少性が極端に高く、安定した供給が見込めないミャンマー産ルビーの代わり活躍しています。
ミャンマー産と比較すると、少なくとも欧州でも約500年の伝統を持ち、人々が受け継ぎ流通してきたミャンマー産に対し、マーケットにでて10年も経っていないモザンビーク産ルビーが今後、どの程度評価されるかは、世代を越えてみないと分かりません。
現在のところ、サザビーズやクリスティーズでは、天然無処理で美しいミャンマー産ルビーと同等に評価された記録はありません。
4位:タイランド産
現場は、ほぼすべては漂砂鉱床(二次鉱床)で、ルビー、サファイアなどの宝石があると思われる土壌の水で洗いながら結晶を探す露天掘りで採掘が行われていました。
タイランドの東部チャンタブリ市からほど近いターマイ鉱山や国境を越えたカンボジアのパイリーン鉱山で多く産出しました。
ブルーサファイアで有名な西部のカンチャナブリ鉱山でもルビーは産出していました。
日本国内では、1970年から1980年代に多く流通したタイ産ルビーは、褐色味の強い色調と色の濃いルビーが多く、その独特な色合いが好きなコレクターも居られます。
玄武岩を母岩とするタイランド産ルビーは、鉄分を多く含み、その独特の暗くて茶色がかかった赤色みと、紫外線(長波)により蛍光性がほぼありません。
今現在は、採掘をほとんどの鉱山は採掘を終えており、バナナ農園やゴルフ場になっています。
そして、タイランド産ルビーが積極的に採掘された時代は、人為的な加熱処理の問題が顕在化する前であったため、天然無処理で美しいものは、ほとんど残っていません。
タイランド産ルビーは、時々、サザビーズやクリスティーズのオークションに出品されますが、加熱処理をしていることなどの理由から、同じ大きさなら天然無処理で美しいミャンマー産ルビーの1%~10%ぐらいの値段で落札されています。
5位:スリランカ産
スリランカは、「宝石の島」とも称され、長い歴史を持つ宝石産地ですが、私自身が現場に行ったことが無いため、米国宝石学者のRichard. Hughesの著書、及び業者仲間に聞き及んだ範囲で解説します。
ほぼすべての鉱山は、漂砂鉱床であり露天掘りが一般的で母岩が付いた原石は殆ど産出しないとのこと、数メートルから10数メートルの比較的浅いところで採掘が行われているとのこと。
ルビーの鉱物名である「コランダム」もサンスクリット語の「クルビンダ」が語源だといわれており、2000年前から宝石を産出することで有名でした。
ルビーの産地というよりは、ブルーサファイアやパパラチアサファイアの原産地としてよく知られています。(パパラチアサファイア=オレンジ味の色調の強いピンクサファイア)
スリランカ産ルビーは、ミャンマー産と比べて淡いピンキッシュなものが多い印象がありますが、スリランカ産ルビーの特徴である長いシルクインクルージョン(針状のルチルの結晶が絹を編んだように内包されるもの)が入った原石をカボションカットに磨くと見事なスタールビーになります。
モザンビーク産ルビーやタンザニア産ルビーと同じく、片麻岩を母岩とした広域変成岩起源とされており、ミャンマー産ルビーと比較すると365nmの紫外線に対する反応は弱くなります。
宝石ルビーとしての価値については、前述のスタールビーを除いてオークションなどで出品されることがほとんどないため、不明です。
その他のルビーの産地
ルビーの産地は以上のランキング以外にグリーンランド、アイスランド、ケニア、タンザニア、マダガスカル、インド、アフガニスタン、タジキスタン、カンボジアがあります。
まとめ
「ルビーの産地」というキーワードによって、それぞれの産地の特徴や産地別知名度ランキングをお伝えしましたが、あくまでも産地以外の品質が同じものであった場合の解説です。
今回は産地にテーマを絞って違いを解説しましたが、宝石ルビーは唯一無二の存在であり、すべてが個性です。
ファッションの一部として身に着けるだけが目的であれば、産地にこだわらなくても良いかも知れませんし、ひょっとしたら人工合成石でも充分かも知れません。
しかしルビーを購入する目的が、自分が着けて楽しんで、いつか誰かに、思い出と共に受け継いでいく、または手放して換金するということであれば、ミャンマー産の天然無処理で美しいルビーであれば安心だということです。
そして、知名度が高いからといってミャンマー産ルビーのすべてが、宝石としての価値が高いかといえば、必ずしもそうではありません。
そのルビーの品質が高いことの確認も重要です。
本物のルビーなのか?産地はどこか?そして処理されているかどうか?サイズはどうか?については、ある程度、鑑別業者の発行する分析結果報告書(鑑別書)を参考にすることができます。
しかし、鑑別書に記されている内容だけで、そのルビーの値段が適正なのかどうか?は分かりません。品質を見分ける必要があります。
前述の鑑別に加えて、「美しさ」、「色の濃淡」、「欠点」を観なければ品質は分かりません。
そして、品質を見分けた上で、GQ(ジェムクオリティ)最高品質、JQ(ジュエリークオリティ)高品質、AQ(アクセサリークオリティ)宝飾品質、の3つのゾーンに仕分けます。
3つのゾーンに分けることで、それぞれの品質の需要と供給のバランスから、ある程度の相場を割り出すことができます。
そこではじめて、そのルビーの価値判断、適正な値段かどうか?が見えてきます。
ミャンマー産ルビーであったとしても、品質の低いものAQ(アクセサリークオリティ)と、タイランド産の品質の高いものGQ(ジェムクオリティ)を比較すれば、タイランド産ルビーのGQの方が宝石としての価値は高くなり、当然ですが売買される値段も高くなります。
このように宝石ルビーの価値判断をする時には、宝石品質判定をするべきで、宝石ルビーの原産地は、あくまでも品質判定をする時の1項目だということを理解しておきましょう。
宝石品質判定については、下記をご参照ください。<リンク>
<コラム>ルビー鉱山、採掘の現場で感じたこと
私が初めてルビーの鉱山に行ったのは、2000年に大阪にあった宝石鑑定士の専門学校JBS(畠健一校長)の宝石鉱山視察ツアー、買付講座に同行した時です。
大自然の中にある宝石の採掘現場で感じられることはとても貴重な体験でした。
2002年~2004年まで、宝石買付講座のインストラクターとしてタイランドのチャンタブリ、カンチャナブリの鉱山に同行し、鉱山の採掘状況を観てきました。
また、2004年には、元JTC桃沢社長のお誘いで、カナダ最北部のノースウェストテリトリー(北極圏)にあるダイヤモンドの「ダイアビック鉱山」と「エカティ鉱山」へ視察に行き勉強させていただきました。
氷点下30度の寒い場所での採掘作業やカット研磨の現場を見ることができたのはとても貴重な経験でした。
しかし、そこへ行ったという満足感はありましたが、採掘のコストや難しさ、出現率、またどうやって事業として成り立っているのか?などは分かりませんでした。
そして紆余曲折あり、ミャンマーに現地法人を開設、2007年からミャンマー最北部カチン州のルビー鉱山ナヤン(Nam-Ya)にて自社で採掘を始めました。
ルビー鉱山採掘の現場についての話は、また今度の機会にしたいと思います。