ルビーの化学組成について解説【鉱物から発見された多くの元素たち】

宝石の原石は、地下深いところで誕生した鉱物です。そこは地表より高温高圧の環境であるうえに、プレートの運動により長い年月をかけてゆっくり動いています。このため様々な化学反応や融解そして結晶化が繰り替えされ、多様な化学組成を持った鉱物が生まれます。

ルビーは誰もが知る特別な宝石です。

しかし、ルビーの化学組成について詳しく知っている方は意外と少ないかもしれません。

この記事では、宝石の中でも特別なルビーの化学組成について詳しく解説します。

Contents

ルビーの化学組成について

ルビールース

ルビーは、酸化アルミニウムの鉱物で、鉱物名コランダムの赤い変種です。ここではルビーの化学組成について解説していきます。

化学式の見方

鉱物の種類を特定する重要な要素のひとつは化学組成で、それを表したものが化学式です。

鉱物の化学式には以下の3つがあります。

  • 理想式:主成分(必須成分)元素だけの元素記号とその含有量の比を表す添字の数字で表示される式
  • 簡略式:主成分との関係を示しつつ微量成分も表示する式
  • 実験式:分析結果から直接産出する式

どの化学式も、同じ元素ごとでまとめた組成式か、結晶中での性格ごとにまとめた示性式で表します。

ルビー(コランダム)の化学式

ルビーの化学式

コランダムの理想式は、Al2O3です。

これは、コランダムを構成している原子全体の2/5がアルミニウム(Al)で、3/5が酸素(O)であることを表しています。原子比Al:O=2:3という意味です。

コランダムの主成分のAlは特定微量成分で置き換わります。

ルビーではクロム(Cr)などが微量成分です。

主成分のAlを置き換えていることを、簡略式で(Al,Cl)2O3と表現します。

括弧内に主成分を最初に、それに続いてカンマで区切り微量成分を表示します。

主成分と微量成分の比率は、整数比にはまずなりません。分析には多少の誤差はあるので実験式は整数だけでは表示できません。

ルビーの分析結果の場合は次のような少数を使った実験式であらわされます。

(Al1.99Cr0.01)O3

ルビーはアルミニウムと酸素が結びついた酸化物

コランダムは、アルミニウムと酸素が結びついた酸化物で、化学の世界では「典型元素」と呼ばれるグループの元素だけからなる、本来無色の鉱物です。典型元素の性質の一つとして、そればかりでできている物質は七色の光が混ざった自然光と相互作用して色を表す性質を持ち合わせないので無色になります。

典型元素だけでできた無色の鉱物に微妙な色づけをしてくれる不純物元素は、鉄、マンガン、クロム、ニッケルなど多種多様です。このような金属元素は、イオンの状態で水溶液や化合物の中にいると自然の白色光と相互作用する性質を持つ、特別な「電子」をもっています。

この特別な電子を持つ性質が、これらの元素に金属としての性質をもたらす背景でもあります。

これらの金属元素は、本来無色の鉱物に微量元素として含まれると、それぞれの特徴ある色を発揮します。

ミャンマー産ルビーに含まれる微量元素クロムの特徴

ルビーとかかわりがある元素

ルビーの赤い色を生み出す微量元素はクロム(Cr)ですが、結晶全体の1%~2%の含有率といわれており、4%ぐらいになると赤灰色になってしまいます。

その他、結晶に含まれる鉄分(Fe)もその赤色に影響を与えると言われており、玄武岩起源のルビーに多く含まれます。

タイランド、インド、アフリカ産の玄武岩起源のルビーが紫外線に当たった時に、蛍光性が弱いのは、この鉄分が影響しており、成分分析をすれば分かります。

ミャンマー産ルビーは、成分分析の表では、クロムの量が多く鉄分がほとんど検出されないのに対して、タイランド産などの玄武岩起源のルビーは、クロムと同じぐらいの鉄が検出されます。

鉱物から発見された多くの元素

地球は、その堆積の約84%が鉱物からできています。

古代から人類は鉱物を用いることで、活動を向上させ、文明を築き上げてきました。鉱物に関する興味や関心は現代の非ではなかったと思います。

現在でも鉱物は文明社会を支える道具や、ハイテク製品などの材料や原料に使われ、その重要性に変わりはありません。

多くの元素が鉱物から発見されました。

物質を構成する原子の並びがX線を鉱物に照射することで解明できることを発見し、研究してきた先人たちの成果は素晴らしいことです。

地球の歴史の過程を記録する鉱物

鉱物は、地球がつくったものです。

地球創世記には、太陽が誕生した頃集まったガスや固体といった集団が衝撃や放射性元素に反応で溶融され、その後元素が重力や化学法則に従って分離や濃集を繰り返しながら地球内部における階層構造を作り上げていきました。

地球はいまだに変動を続けていて、元素の集合と離散を続けています。

鉱物には、地球創世記にできたものもあれば、新たにできたものもあります。

一度できた鉱物も環境の変化(温度や圧力の変化、気体や液体の侵入など)によって溶けたりして、別の鉱物の材料になることもあります。

このような地球の歴史の過程を記録できるのは鉱物だ卦です。

鉱物から元素を見つけ出す

先人たちは鉱物の化学成分を明らかにして鉱物から元素を見つけ出しました。

原子の規則正しい配列も解明されました。

最近では超微細な鉱物も分析機器の発達により解析できることが増えましたが、まだわからないことも多く残されているので詳しい研究は続けられています。

鉱物種とは?

鉱物は、形態(見た目)や性質(硬さや重さなど)で分類されてきましが、化学結晶学、地質学などの発展により、化学組成、結晶構造、産状など、科学的視点による分類方に移り、長年改正が続き最近では、化学結合の様式が明瞭に現れる隠イオン原子団に基づく分類方が主流となっています。

鉱物種は、単体と化合物があります。

単体:単一の元素からできているものです。炭素からできているダイヤモンドや石墨が代表例です。

化合物:複数の元素が化合しているものです。

鉱物に限らず物質の化学組成の表示方には、成分の重力比か原子比が使われます。

ルビーの原産地により含まれる元素が違う

最高品質のルビーであるピジョンブラッドを産出するのはミャンマーで、市場でも一番高く評価されています。

同じ宝石種、天然ルビーであっても、産出した場所(結晶した時の環境)によって性質に違いがあり、原産地によって市場の評価も違ってきます。

産地の特徴は大きく分けて下記の3つに分けられ、ルビーとしての評価も、接触変成岩起源が一番高く、続いて広域変成岩起源、そして玄武岩起源の順番です。

  • 接触変成岩起源… ミャンマー、アフガニスタン、タジキスタン、ベトナム
  • 広域変成岩起源… スリランカ、モザンビーク
  • 玄武岩起源… タイランド、インド、カンボジア、マダガスカル、ケニア

ミャンマー産ルビーが一番高く評価される理由は、結晶する時の環境が「接触変成岩起源」であり、ピジョンブラッドの赤色を決める元素クロム(Cr)を多く含む地質地下40㎞の深いところで結晶したからです。

ミャンマー産ルビーは、365nmの紫外線に対してクロムが反応して鮮赤色にまるで電源を入れたように輝きます。

これはFluorescence(フローレッセンス)と呼ばれる性質で、ピジョンブラッドルビーの条件の一つです。

ルビーの赤色には、クロム(Cr)と鉄(Fe)の割合が関係しますが、鉄分の多い地下20㎞と地殻とクロムの多い地下40㎞では結晶する時の環境が違うということです。

原産地については、宝石種と同じように、鑑別業者へ分析を依頼することができ、専門的な機器を使った分析が可能です。

産地については、専門の宝石研究所、鑑別業者に依頼して分析結果報告書(鑑別書)を取るのが良いでしょう。

産地のトピック

壮大な大自然のドラマがある、地球と生命が生んだ奇跡の宝石「ミャンマー産ルビー」のルビーの母岩は、カルシウム分が主成分の堆積岩が変成した接触変成岩です。

約5億年前にカンブリア紀で生きた甲殻類やサンゴ、貝類などの生命のカルシウムが、現在のインド洋の海底に豊富に堆積していました。

時が流れて、約一億年前に南極を離れて北上したインドが、海底に堆積したカルシウム分(堆積岩)をブルドーザーのように北に押し上げて行きました。

約5000万年前からユーラシア大陸に衝突しました。

インド側のプレートが、カルシウムの堆積岩と一緒に、ユーラシア大陸の下に潜り込むような形で沈んでいきました。

世界最高峰エベレスト山は、このインドとユーラシア大陸の衝突が原因の造山活動です。山となって盛り上がったプレートと地下深くに沈んでいったプレートです。

沈み込んだプレートと一緒に移動したカルシウムの堆積岩がマグマと接触して変成したのがルビーの母岩「接触変成岩」です。

その時、地下40㎞でミャンマー産ルビーが結晶しました。

そして、地下深い場所で結晶したルビーは、沈み側プレートのため、普通であればマントルまで沈み込んで溶けてなくなります。

しかしヒマラヤ山脈の麓の極々一部に特別なエリアがあり、その結晶が地表まで上がってくる場所があります。それがモゴック、ナヤンのルビー鉱山です。

(加熱処理を必要としますが、接触変成岩起源のルビーは、原石はモンスーでも産出します)

カンブリア紀の生命は、海洋生物の進化によって弱肉強食の世界になっていて、海の中の生物はカルシウム分で甲羅をつくることで生き残りをかけた名残り、そのカルシウム分が海底の堆積していたこと。

そして、インドが南極を離れ、南半球から北半球まで1年間に15㎝北上し、その先にはユーラシア大陸があったこと。

そしてクロムが多い地下深くまで沈み側プレートにのって移動して結晶したルビーが、逆行して地表まで上がってきた場所があった。

地球の活動と生命の痕跡が生んだ奇跡の宝石がミャンマー産ルビーです。

フローレッセンスの鮮やかな輝きは、地球と命の象徴です。

ルビーの美しさ(色調、透明度、明度、彩度)

ルビーの美しさを観るときのポイント6点

  • 強い赤色とわずかに紫味を帯びた色調であるか
  • 透明度はどうか
  • 彩度はどうか
  • プロポーションはどうか(ルビーの美しさその2カット、研磨)
  • インクルージョン(内包物)が美しさを引き立てているか、または悪影響を与えているか
  • フローレッセンス(蛍光性)の有無

紫外線365nmの長波光に鮮赤色に反応する性質、そして深紅で透明度が高く、色の濃い結晶に、シルクインクルージョンが絶妙な密度で内包されるなど、すべての条件が揃った最高品質を「ピジョンブラッドルビー」と呼びます。

鑑定書に「ピジョンブラッドカラー」、「ピジョンブラッドレッド」とコメントされていることもありますが、それぞれの鑑別業者が独自の基準をクリアしたモノに対する参考意見であり、ここでいう「美しさ」を表すものではないことを理解しておいた方が良いでしょう。

まとめ

この記事ではルビーの化学組成について詳しく解説してきました。

人の手を加えられていない自然のままのルビーは美しい宝石です。

その美しさの理由を知りたくなった時に鉱物やそれらに関連した知識を学ぶとさらに楽しめることでしょう。

もっとルビーを知りたくなった方へ、ルビーの品質についてはこちらで詳しく解説しています。

 

 

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