ルビーは、古代から現代にわたってお守りとして人気の宝石です。
この記事では「ルビーにはクロムが入っているのか」についてご紹介します。
全てのルビーにクロムが入っているわけではない
「ルビーという名前だから、どれも同じだろう」と考える人もおられますが、
ルビーという名前がついている商品には、色々な種類のものがあります。
ミャンマー産ルビーは、地下40㎞の深いところクロム(Cr)の多いところで結晶したため、鉄分がほとんど含有されておらず、ほぼクロムだけで赤く発色します。
ピジョンブラッドルビーの条件
ここでは、ピジョンブラッドルビーの条件について解説します。
ピジョンブラッドルビーの条件の一つであるフローレッセンス(蛍光性)は、ルビーの赤色に関係する元素が関係しています。
ミャンマー産ルビーが紫外線に強い蛍光反応を示すのは、この微量元素クロムの割合の違いによるものです。
その特別な蛍光性を持つルビーをピジョンブラッドと呼び、ピジョンブラッドルビーはミャンマー以外では見つかっていません。
逆に、鉄を多く含む産地のルビーは、その蛍光反応が弱い、または全くありません。
ルビー(コランダム)の化学式
コランダムの理想式は、Al2O3です。
これは、コランダムを構成している原子全体の2/5がアルミニウム(Al)で、3/5が酸素(O)であることを表しています。原子比Al:O=2:3という意味です。
コランダムの主成分のAlは特定微量成分で置き換わります。
ルビーではクロム(Cr)などが微量成分です。
主成分のAlを置き換えていることを、簡略式で(Al,Cl)2O3と表現します。
括弧内に主成分を最初に、それに続いてカンマで区切り微量成分を表示します。
主成分と微量成分の比率は、整数比にはまずなりません。分析には多少の誤差はあるので実験式は整数だけでは表示できません。
ルビーの分析結果の場合は次のような少数を使った実験式であらわされます。
(Al1.99Cr0.01)O3
ミャンマー産ルビーに含まれる微量元素クロムの特徴
ルビーの赤い色を生み出す微量元素はクロム(Cr)ですが、結晶全体の1%~2%の含有率といわれており、4%ぐらいになると赤灰色になってしまいます。
その他、結晶に含まれる鉄分(Fe)もその赤色に影響を与えると言われており、玄武岩起源のルビーに多く含まれます。
タイランド、インド、アフリカ産の玄武岩起源のルビーが紫外線に当たった時に、蛍光性が弱いのは、この鉄分が影響しており、成分分析をすれば分かります。
ミャンマー産ルビーは、成分分析の表では、クロムの量が多く鉄分がほとんど検出されないのに対して、タイランド産などの玄武岩起源のルビーは、クロムと同じぐらいの鉄が検出されます。
ルビーの原産地により含まれる元素が違う
最高品質のルビーであるピジョンブラッドを産出するのはミャンマーで、市場でも一番高く評価されています。
同じ宝石種、天然ルビーであっても、産出した場所(結晶した時の環境)によって性質に違いがあり、原産地によって市場の評価も違ってきます。
産地の特徴は大きく分けて下記の3つに分けられ、ルビーとしての評価も、接触変成岩起源が一番高く、続いて広域変成岩起源、そして玄武岩起源の順番です。
- 接触変成岩起源… ミャンマー、アフガニスタン、タジキスタン、ベトナム
- 広域変成岩起源… スリランカ、モザンビーク
- 玄武岩起源… タイランド、インド、カンボジア、マダガスカル、ケニア
ミャンマー産ルビーが一番高く評価される理由は、結晶する時の環境が「接触変成岩起源」であり、ピジョンブラッドの赤色を決める元素クロム(Cr)を多く含む地質地下40㎞の深いところで結晶したからです。
ミャンマー産ルビーは、365nmの紫外線に対してクロムが反応して鮮赤色にまるで電源を入れたように輝きます。
左は玄武岩起源のルビー、右は接触変成岩起源のルビーです。右のルビーの方が強い蛍光反応をしめします。
これはFluorescence(フローレッセンス)と呼ばれる性質で、ピジョンブラッドルビーの条件の一つです。
原産地については、宝石種と同じように、鑑別業者へ分析を依頼することができ、専門的な機器を使った分析が可能です。
産地については、専門の宝石研究所、鑑別業者に依頼して分析結果報告書(鑑別書)を取るのが良いでしょう。
産地のトピック
壮大な大自然のドラマがある、地球と生命が生んだ奇跡の宝石「ミャンマー産ルビー」のルビーの母岩は、カルシウム分が主成分の堆積岩が変成した接触変成岩です。
約5億年前にカンブリア紀で生きた甲殻類やサンゴ、貝類などの生命のカルシウムが、現在のインド洋の海底に豊富に堆積していました。
時が流れて、約一億年前に南極を離れて北上したインドが、海底に堆積したカルシウム分(堆積岩)をブルドーザーのように北に押し上げて行きました。
約5000万年前からユーラシア大陸に衝突しました。
インド側のプレートが、カルシウムの堆積岩と一緒に、ユーラシア大陸の下に潜り込むような形で沈んでいきました。
世界最高峰エベレスト山は、このインドとユーラシア大陸の衝突が原因の造山活動です。山となって盛り上がったプレートと地下深くに沈んでいったプレートです。
沈み込んだプレートと一緒に移動したカルシウムの堆積岩がマグマと接触して変成したのがルビーの母岩「接触変成岩」です。
その時、地下40㎞でミャンマー産ルビーが結晶しました。
そして、地下深い場所で結晶したルビーは、沈み側プレートのため、普通であればマントルまで沈み込んで溶けてなくなります。
しかしヒマラヤ山脈の麓の極々一部に特別なエリアがあり、その結晶が地表まで上がってくる場所があります。それがモゴック、ナヤンのルビー鉱山です。
(加熱処理を必要としますが、接触変成岩起源のルビーは、原石はモンスーでも産出します)
カンブリア紀の生命が関係するミャンマー産ルビーの母岩
カンブリア紀の生命は、海洋生物の進化によって弱肉強食の世界になっていて、海の中の生物はカルシウム分で甲羅をつくることで生き残りをかけた名残り、そのカルシウム分が海底の堆積していたこと。
そして、インドが南極を離れ、南半球から北半球まで1年間に15㎝北上し、その先にはユーラシア大陸があったこと。
そしてクロムが多い地下深くまで沈み側プレートにのって移動して結晶したルビーが、逆行して地表まで上がってきた場所があった。
地球の活動と生命の痕跡が生んだ奇跡の宝石がミャンマー産ルビーです。
フローレッセンスの鮮やかな輝きは、地球と命の象徴です。
「この記事の主な参考書籍・参考サイト」
●「図説 鉱物の博物学第2版」著者:松原聡/宮脇律郎/門馬綱一 / 発行:秀和システム