宝石の世界には、多彩な色と輝きを放つ様々な宝石が存在します。
その一つガーネットは、赤い色合いのものがルビーと混同されたため「ルビーの類似石」と呼ばれますが、実は、緑色やオレンジ色の美しい種類もあり、欧州ではルビーと負けず劣らず長い歴史を持つ宝石です。
この記事では、ルビーとガーネットに焦点を当て、それぞれの比較を通じて、どのような魅力があるか探求します。
ガーネットとは?
ガーネットとルビーは、歴史的に見るとどちらとも古くから人々に親しまれてきた宝石で、赤い宝石というイメージがありますが、オレンジ色から黄色の強いもの、緑色のものがあります。
ルビーの類似石として、中世ヨーロッパでもルビーと思われていたのは、ボヘミアンガーネットとも呼ばれたパイロープガーネットが有名です。
また、旧約聖書で登場するカーバンクル又はカルブンクルスと呼ばれる赤い宝石は、ルビーと訳されます。
ドイツでは、今でもルビーをカーバンクルと呼ぶので、詳しい人は昔からルビーとガーネットを見分けていたと思いますが、ルビーが産出しなかったヨーロッパでは、多くの人々が、ルビーとガーネットは同じ宝石だと思っていたとしても不思議ではありません。
1500年代にチェコで、ルビーに見た目そっくりのパイロープガーネット(PyropeGarnet)が発見されてからは、ヨーロッパで一世風靡しました。
ひとつの石ではないガーネット
ガーネットは特定のひとつの石の名前ではなく、ガーネットの系統をすべて含めた一族の総称です。自然界で固溶体(2種類以上のガーネットが互いに溶け込み、出来上がった新たな成分からなる混合体)として存在し、化学成分により16種類の端成分に分けられますが、大まかには6種類に分類することが出来ます。
- 赤色系のアルミニウム・ガーネットのパイロープ
- 赤色系のアルミニウム・ガーネットのアルマンディン
- 赤色系のアルミニウム・ガーネットのスペサルティン
- 緑色系のカルシウム・ガーネットのグロッシュラー
- 緑色系のカルシウム・ガーネットのアンドラダイト
- 緑色系のカルシウム・ガーネットのウバロバイト
ガーネットについて詳しくはこちらでも詳しく解説しています。
ガーネットの化学組成
ここでは代表的なガーネットの化学組成を紹介します。
- パイロープガーネット:Mg₃Al₂(SiO₄)₃
- アルマンディンガーネット:Fe²⁺₃Al₂(SiO₄)₃
- スペサルティンガーネット :Mn₃Al₂(SiO₄)₃
- グロッシュラーガーネット:Ca₃Al₂(SiO₄)₃ ツァボライトは、グリーングロッシュラーガーネットです
- アンドラダイトガーネット:Ca₃Fe³⁺₂(SiO₄)₃ デマントイドは、このアンドラダイトです。屈折率高い
ガーネットは、ケイ酸塩鉱物(SiO₄)₃ を中心として似通った結晶の総称であり、アルミニウムを含むグループ、パイロープアルマンディンスペサルティンとカルシウムを含むグループ、グロッシュラーアンドラダイトに大きく2つに分けられます。
ロードライトやツァボライト(グリーングロッシュラーガーネット)などは、2つの系統が合わさったものです。
ガーネットの起源と歴史
ガーネットは、紀元前3000年頃の古代エジプトもしくはユーフラテス川近辺で繫栄したバビロニアで既に使用されたとされています。
その後、古代ローマやギリシャ、中世ヨーロッパでも非常に人気があり、宝飾品に広く使われてきた歴史の長い宝石です。
ルビーの類似石とされていますが、それらの地域ではルビー・サファイアの鉱物コランダムは産出しませんので、古代エジプトの遺跡から発掘されるルビーがどこから伝わったのか?非常に興味深いことです。
ガーネットの宝石名の由来は、旧ラテン語の「グラナトゥムGranatum」ザクロの種子を指す言葉です。
実際に鉱山で原石をみると、なるほどと、感じます。
そして、ルビーの宝石名の由来は、旧ラテン語の「ルビウスRubeus」、赤を意味する言葉です。
医学用語の語源もほとんどがラテン語由来だということに驚きます。
ルビーとガーネットの特性比較
ルビーとガーネットの特徴にはどんな違いがあるのでしょうか。以下の3項目で比較してきます。
- 色のバリエーション
- 価格
- 耐久性
色のバリエーションの比較
ルビーの色
ルビーは、赤い宝石です。色の濃淡によってはピンキッシュなものもありますが全て化学組成は同じAl₂O₃コランダムでモース硬度は#9です。
赤系の色調のもの以外は、~サファイアという呼び方をします。青味が強くなったものは、ヴァイオレットサファイア、紫味のものはパープルサファイア、その他、イエローサファイア、グリーンサファイア、オレンジサファイア、無色透明なホワイトサファイアもあります。
ガーネットの色
ガーネットは、16~17世紀にヨーロッパを一世風靡したボヘミアンガーネット(パイロープ)が有名なので、赤色から褐色が有名ですが、オレンジ色のスペサルティンガーネットや緑色のツァボライト(グリーングロッシュラーガーネット)、デマントイドガーネットなどバラエティに富んでおり、それぞれモース硬度#6.5~#7.5、屈折率もバラエティによって違ってきます。
特に、緑色のアンドラダイト(デマントイドガーネット)は、高い屈折率と研磨の仕方によってキラキラと輝くので、18世紀初めから20世紀初頭まで栄えた帝政ロシアの時代に、ウラル山脈で発掘されてから、ロイヤルファミリーのハイエンドジュエリーにも使われるようになりました。
それがヨーロッパに伝わりました。安い宝石というイメージのあるガーネットですが、このデマントイドガーネットのように別格のものもあります。
価格の比較
「ガーネットは安い宝石ですか?」とお店で質問を受けることがありますが、ガーネットとルビーの比較というテーマで説明するのは、難しいと思います。
それぞれに色々な品質のものがあること、そして、前述のデマントイドガーネットのようにマーケティングが上手くいったことで高額なガーネットがありますので、それぞれの品質を詳しくみなければ価格の比較は難しいです。
今回は、赤いルビーと赤系のガーネットの比較をしてみますが、ルビーの市場価格は2023年度現在のモリスルビーの値段と、「価値が分かる宝石図鑑 諏訪恭一氏著書」の値段が併記されており、違いますので、ご注意ください。
ガーネットの市場価格
デマントイドガーネット1ctサイズ 市場価格 (ガーネットで一番高額)
GQ ジェムクオリティ120万円
JQ ジュエリークオリティ60万円
AQ アクセサリークオリティ20万円
赤色のガーネット(紫味を含んでいる)ロードライトガーネット3ctサイズ(宝石図鑑より引用)
GQ ジェムクオリティ7万円
JQ ジュエリークオリティ3万円
AQ アクセサリークオリティ1万円
ルビーの市場価格
天然無処理で美しいミャンマー産ルビー1ct(モリスルビーの価格)
GQジェムクオリティ250万円~750万円
JQジュエリークオリティ100万円~250万円
AQアクセサリークオリティ30万円~100万円
この20年間で年に4%~6%上昇している。
加熱処理をしたミャンマー産ルビー1ctサイズ(参考)
GQジェムクオリティ20万円~80万円
JQジュエリークオリティ8万円~20万円
AQアクセサリークオリティ3万円~8万円
この20年間で年に1%~2%下落している。
天然無処理で美しいモゴック産ルビー1ct(宝石図鑑より引用)
GQ ジェムクオリティ240万円
JQ ジュエリークオリティ120万円
AQ アクセサリークオリティ25万円
天然加熱処理したタイランド産ルビー1ct
GQ ジェムクオリティ50万円
JQ ジュエリークオリティ30万円
AQ アクセサリークオリティ7万円
光沢の比較屈折率の説明
ルビーもガーネットも、ガラス光沢で、屈折率はルビーが1.762~1.770に対して(感じが好ましい)ガーネットの場合は、ボヘミアンガーネットとして有名なパイロープは、1.746で比較的ルビーに近いものから、デマントイドの1.888とルビーよりも高いものまで種類によって違いがあります。
屈折率というのは、真空状態での光の進む速度を1.0とした場合に、水は、1.333で、屈折率が高いほどその物体の中を通る光の速度が遅くなるということです。
真っ直ぐな棒を水に入れて斜めから見ると真っ直ぐな棒が水平面から折れ曲がって見えるのは、空気の屈折率と水の屈折率が違うからです。
話は少し逸れてしまいますが、大空に輝く虹は、大気圏に入った太陽の光が、目に見える光線(可視光線)がすべて届いている時は、白ですが、大気中の水蒸気の割合が増えてプリズムのレンズのようになると、屈折率が変わり、一番進む速度の速い赤色の光線から遅い紫色の光線に光が分れる(分光)現象です。
ダイヤモンドの虹色の輝きは、屈折率2.417と高さを活かして分光させたことによるものです。
ルビーとよく似た宝石(類似石)として有名なボヘミアンガーネット(パイロープ)は、屈折率も似通っている(ルビー1.770、パイロープ1.746)こともあり、特にタイランド産のチャンタブリのターマイ鉱山やカンボジアのパイリーン鉱山で産出されたルビーの加熱処理をする前の原石は、ガーネットとよく似ています。(ガーネットの原石が欠けたモノに見えます)
ルビーとガーネットの見分け方
ルビーとガーネットを見分ける方法については、集積地や鉱山で仕事をするプロでない限り必要はないと考えます。
日本の宝石店で、ガーネットをルビーとして販売するお店は無いはずですが、もし手元に赤い宝石をお持ちで、ルビーなのか、ガーネットなのかを見分けたい時には次の方法があります。
鑑別書(分析結果報告書)で確認する
AGL(鑑別協議団体)に加入している鑑別業者が発行する分析結果報告書に記載してある「鉱物名」と「宝石名」を確認することでルビーかガーネット化を見分けることができ、一番手軽な方法です。
ルビーとガーネットだけではなく、天然石の中には、類似石には、レッドスピネル、レッドベリル、カーネリアン、ファイアーオパール等がありますし、人工合成石の可能性(ルビーの場合は、これが一番多いと思います)やプラスチックやガラスの模造石の場合もあり、鑑別書は、そういう意味でとても便利なものです。
モース硬度で見分ける(非現実的な方法ですが)
ルビーのモース硬度は#9、ガーネットのモース硬度は#6.5から#7.5で、モース硬度の高さとは、ひっかき傷がつきにくいかどうかです。
モース硬度とは、鉱物の硬さを図る尺度で、一番硬いものが「10」、一番軟らかいものが「1」とされます。
ダイヤモンドは#10でルビーは#9、ガーネットの#6.5~#7.5の度合いは、ガラスは#4.5~#6.5なので、ガラスより少し硬い削除ぐらいです。
非現実的な方法でおすすめできませんが、ルビーでガーネットをこすってキズが付いたら、スピネル#8か、ガーネット#6.5~#7.5か、レッドベリル#7.5~#8か、ということになりますが、わざわざキズを付けてテストするよりは、良い方法が別にあります。
二色鏡(ダイコスコープ)を使って複屈折性があるか見分ける
宝石には、単屈折性と複屈折性の結晶があり、結晶の中に入った光線が別れることがない、ダイヤモンド、スピネル、ガーネットなどの結晶と、二色以上に分かれる結晶があります。
ルビー、サファイア、エメラルド、カルサイト、トルマリン等々が複屈折性のある宝石です。
上記のダイコスコープを使って結晶を覗くと、四角い窓が二つあるはずですが、その色の両方が同じ色であれば単屈折、ピンク色とオレンジ色に分かれていればルビーです。
ルビーとガーネットを見分ける一番手っ取り早い方法です。
ルビーとガーネットのジュエリー
ルビーと赤い色調を持ったガーネットは、どちらもジュエリーに装着すると華やかな雰囲気に仕立てられます。
特に白いダイヤモンドとのコントラストは、紅白そのもの、小さなサイズのジュエリーでも華やかな存在感があります。
歴史的にルビーもガーネットも両方重要なジュエリーに使われてきました。
ポーランドの鷹のような少し大きめの深紅の宝石は、天然無処理で美しいミャンマー産ルビーで探すとすれば、相当な資金と時間がかかると思いますが、ガーネットの場合は比較的簡単に安価で入手できるでしょう。
ロイヤルファミリーが資金的な問題でガーネットを選ぶことはないはずなので、見た目が同じルビーが手に入らなかったか、もしくは、気にしていなかったかのどちらかであると考えます。
ルビーとガーネットを指輪に使う場合の注意点
ルビーと赤い色調を持ったガーネットは、どちらもジュエリーに使われますが、指輪に使う場合は注意が必要です。
モース硬度があまり高くないガーネットは、ネックレスやピアス、ブローチなど、あまりぶつけたり、擦れたりすることの少ないジュエリーに装着することをおすすめします。
どうしても指輪に装着する場合は、構想(デザイン)をよく練って、ガーネットにキズが付かないような形に仕立てるように気を付けて下さい。
そして、ルビーの場合は、硬くて丈夫な宝石ですので、特に構想(デザイン)に注意する点はありませんが、それでも、100年以上使ったアンティークジュエリーに装着されているルビーを見ると、そのほとんどのルビーのファセット(切子)面の角が少し欠けていたり、削れたりしています。
ダイヤモンドは、そのファセット面が削れていることはまずありませんが、枠を外すと、パカッと割れているものがありますが、ルビーで割れているものは殆どありません。
それぞれの宝石には、それぞれの特性がありますので、プロのジュエラーに仕立てる時、使う時の注意点のアドバイスを受けるのが良いでしょう。