“婚約指輪の始まり”について
婚約指輪や結婚指輪はいつから存在するのか、どうして必要なのか。その価値を知ることで、愛する人を、そして指輪への想いがより深いものに。
ブライダルリングの歴史をたどる連載コラムの最初のテーマは、“婚約指輪の始まり”について。これまでに常識だと思っていた前提や価値観にとらわれずに、史実をひも解くことで見えてくることがあります。
愛する人へ捧げる指輪として選ばれてきた天然のルビー
プロポーズの言葉とともに、不変の愛の証として贈られる婚約指輪(エンゲージリング)。婚約指輪といえばダイヤモンドというのが現代の常識になっていますが、その歴史は意外にも浅く、史実をひも解いていくと、婚約指輪の宝石として選ばれていたのはルビーが始まりだったことが分かってきました。
ルビーが愛の証として贈られるようになったのは、日本の歴史でいうところの鎌倉時代までさかのぼり、ヨーロッパ王室の文化が始まりです。その当時の宝石にはお金以上の価値が与えられていて、婚約指輪を贈ることは貯金通帳を手渡すこと、つまり“財産のすべてを託すから結婚してください”という覚悟を持って行われてきました。
“あなたと結婚したいという想いは本気です”という気持ちの表れとして、宝石のなかでも人を魅了する美しさを持つ石であり、希少性の高いルビーが選ばれていたのです。ルビーはもともと「生命」「勝利」をもたらす軍神の石として崇められていましたが、王が未来の妻となる女性に贈り物として捧げてからは、「愛」を表すようになり、現代に至っています。
ルビーが「愛」の象徴として贈るのが婚約指輪のはじまりでした。上の写真は、1200年代に普及したフェデリング(Fede Ring)というもので、「フェデ」はイタリア語で“忠実”を表し、手と手を取り合った形が特徴です。ヨーロッパでは、手を見せる行為は、「正直」「偽りがない」ことを意味し、その形は、結婚指輪で多く使われました。
(指輪88「四千年を語る小さな文化遺産たち」淡交社より引用)
技術の進化・時代の流れとともに台頭してきたダイヤモンド
結婚石としての長い歴史がありながら、時代が進むにつれてルビーの地位が脅かされてしまったのはなぜなのでしょう。
「ルビーは、代々王様が愛した石として不動の地位を築いてきましたが、あまりにも知名度が高かったために昔から人工的によく似たものが作られ、市場で売られてきた歴史があります。人工合成石は、日本の明治時代はルビーとして販売されていました。
日本に輸入された多くのルビーは、この人工合成石です。その後、宝石の鑑別技術の発達により人工合成石は宝石の定義から外れているために宝石ルビーとは呼ばなくなりました。
宝石の定義とは、美しく希少で経年変化がないものです。結局、人工合成石は購入する時は高価であったのに、売る時は0円です。それがルビーだけでなく、日本の宝石文化の進化を妨げしまったんだと思います。今でも日本では宝石には価値があってないようなものといえます」
ルビーは希少な鉱物で、採掘される量はダイヤモンドの200分の1にも満たないほど少なく、偶然に偶然を重ねて初めて採掘される奇跡の石。
地位が低くなったのではなく、無処理の天然石ルビーを手に入れることが難しかったために、一般市民が手に入れることができなかったことが大きな理由として考えられます。
今でもロイヤルファミリーなど特別な人々はルビーを婚約指輪として贈ります。高円宮典子様に贈られた指輪もルビーです。
買って終わりではないブライダルリングの価値
婚約指輪の相場は給料の3カ月分、というキャッチコピーがいつしか常識になり、購入自体に消極的になる男性も多いことでしょう。
しかし、その視点をずらして「一生物を手に入れる」と考えてみると、宝石の選び方も変わってくるはず。ブライダルリングを選ぶ時に心がけたいことは、「買って終わりではない」ということです。加工処理がされていない天然の宝石は、代々受け継がれ家宝になるもの。
数千年前の宝石が今も変わらぬ美しさを放ち続けて現存しています。デザイン性などの流行にとらわれることなく、本当にいいもの、価値のあるものを選びたいもの。ちなみに、天然ルビーは、ますます需要が高まっています。天然無処理の美しいルビーはこの15年間で2~5倍の価格がつけられるようになりました。
王族たちが愛した一生物の宝石を手に入れられる最後のチャンスといっても過言ではありません。