ルビーは誰もが知る特別な宝石です。
しかし、ルビーの化学組成について詳しく知っている方は意外と少ないかもしれません。
この記事では、宝石の中でも特別なルビーについて詳しく解説します。
ルビーはアルミニウム?
ルビーは「コランダム」という酸化アルミニウム(Al2O3)の結晶鉱物です。
漢字では鋼玉と書きます。
化学式:AL2O3
酸化アルミニウムとは?
酸化アルミニウムはアルミナとも呼ばれる化合物です。
白色の粉末で、水やエタノールには溶けないことが特徴。両性酸化物であるため酸や強塩基の水溶液に溶けるといった性質を持ちます。
物理的、化学的に優れ、酸化系のセラミックス素材として多くの分野で利用されていることが特徴。融点が高い、耐熱性に優れている、化学的に安定しているなど非常に活用しやすい化合物と言えます。
酸化アルミニウムを熱処理すると、水分吸着性能が高い吸着剤が作れます。脱湿・乾燥を目的とした際に高い効果を発揮します。
酸化アルミニウムが使われてる身近なもの
一般的にお菓子などで使用されているシリカゲルよりも強力な除湿剤となるため、工業のジャンルでも活躍する吸着剤です。
金属磨きの研磨剤などにも酸化アルミニウムが含まれます。酸化アルミニウムの結晶であるコランダムは、非常に硬く、その強度はダイヤモンドにも次ぐとされています。
天然から産出されるコランダムは古くから研磨剤として使用されており、さらに人工的に手を加えたアランダム、白色アルミナなど酸化アルミニウムを主成分とする研磨剤の材料が開発された歴史があります。
ルビーの化学組成について
ルビーは、酸化アルミニウムの鉱物で、鉱物名コランダムの赤い変種です。ここではルビーの化学組成について解説していきます。
化学式の見方
鉱物の種類を特定する重要な要素のひとつは化学組成で、それを表したものが化学式です。
鉱物の化学式には以下の3つがあります。
- 理想式:主成分(必須成分)元素だけの元素記号とその含有量の比を表す添字の数字で表示される式
- 簡略式:主成分との関係を示しつつ微量成分も表示する式
- 実験式:分析結果から直接産出する式
どの化学式も、同じ元素ごとでまとめた組成式か、結晶中での性格ごとにまとめた示性式で表します。
ルビー(コランダム)の化学式
コランダムの理想式は、Al2O3です。
これは、コランダムを構成している原子全体の2/5がアルミニウム(Al)で、3/5が酸素(O)であることを表しています。原子比Al:O=2:3という意味です。
コランダムの主成分のAlは特定微量成分で置き換わります。
ルビーではクロム(Cr)などが微量成分です。
主成分のAlを置き換えていることを、簡略式で(Al,Cl)2O3と表現します。
括弧内に主成分を最初に、それに続いてカンマで区切り微量成分を表示します。
主成分と微量成分の比率は、整数比にはまずなりません。分析には多少の誤差はあるので実験式は整数だけでは表示できません。
ルビーの分析結果の場合は次のような少数を使った実験式であらわされます。
(Al1.99Cr0.01)O3
ミャンマー産ルビーに含まれる微量元素クロムの特徴
ルビーの赤い色を生み出す微量元素はクロム(Cr)ですが、結晶全体の1%~2%の含有率といわれており、4%ぐらいになると赤灰色になってしまいます。
その他、結晶に含まれる鉄分(Fe)もその赤色に影響を与えると言われており、玄武岩起源のルビーに多く含まれます。
タイランド、インド、アフリカ産の玄武岩起源のルビーが紫外線に当たった時に、蛍光性が弱いのは、この鉄分が影響しており、成分分析をすれば分かります。
ミャンマー産ルビーは、成分分析の表では、クロムの量が多く鉄分がほとんど検出されないのに対して、タイランド産などの玄武岩起源のルビーは、クロムと同じぐらいの鉄が検出されます。
ルビーの品質の見分け方
ここでは、品質の見分け方について解説します。
ご興味のある方は、宝石ルビーの価値判断をご参照ください。
大前提として、すべての宝石は、個性であり同じものが世界に2つと存在しません。
それぞれの価値がありますので、「宝石品質判定」という目安を設けることで目の前にある宝石ルビー「おおよその値段」が分かります。
さて、それではルビーの品質判定で観る7項目について説明します。
- 宝石種
- 処理の有無
- 原産地
- 美しさ
- 色の濃淡
- 欠点
- サイズ
ルビーの宝石種
最初のステップは、天然のルビーだと見分けることです。以下の4つの中かルビーを見つけます。
- 天然ルビー
- 人工合成石(人工的に合成されたもの)
- 類似石(よく似た宝石)、
- 模造石(似せて作ったモノ)
宝石種、天然ルビー(赤い天然コランダム、Al₂O₃)であることをしっかり確認しておく必要があります。これを鑑別といいます。
鑑別については、専門の機器や経験が不可欠です。
専門の業者があるので、そちらで鑑別してもらうのが一番簡単で、手軽な方法です。
費用はかかりますが、宝石種は一番重要な要素ですから鑑別依頼することをおすすめします。
信頼性の高い鑑別業者及び宝石研究所
- スイスのGubelin Gem Lab (ルビーの研究では100年の歴史)
- スイスのSSEF (ルビーの研究では50年の歴史)
- 米国のGIA (ダイヤモンドのレポートで有名だが、最近ではルビーも鑑別)
- 日本の中央宝石研究所 (世界的にも知られる北脇博士が研究)
ルビーの処理の有無
価値の高いルビーを探す場合には、処理していないルビーが良いでしょう。
その理由は、希少性が全く違い、宝石ルビーの価値に大きく影響を与えるからです。
無処理で美しいものと人為的に美しさを改良するために処理をしたものでは産出の絶対量が雲泥の差、比べるまでもありません。
一般的に流通するルビーのほぼすべてが人為的に品質を改良されたものです。
ルビーに多い処理は以下の5つです。
- 加熱処理
- 鉛ガラスなどを含侵させる処理
- 表面拡散処理
- 充填処理
- 含侵処理
受け継いでゆくことを考えると天然無処理のモノが良いでしょう。
30年前までは、加熱による色調と色の濃淡を改良する処理でした。
しかし、近年では、鉛ガラスを加えて加熱するなどにより、透明度まで改良することもできるようになりました。
人為的に供給する量が増やせる技術が発達することで、安価にルビーの美しさを楽しむことができるのは良いことです。
しかし、供給過多の状態になり、需要と供給のバランスに影響を及ぼしますので、注意が必要です。
処理の有無についても原産地と同じように、鑑別業者へ分析を依頼することが可能です。
ここで注意していただきたいのが、鑑別業者の発行する鑑別書には、コメント欄に、「No indication of heating」、「加熱された痕跡が認められない」と記述されているだけです。
しっかりとした研究を続ける研究所、鑑別業者で信頼性の高いのは下記の通りです。
ルビーの分析で世界的に信頼性が高い研究所
- Gubelin Gem Lab
- SSEF
- GIA
日本では、
- 中央宝石研究所
- GIA 日本支社
しかし、鑑別書(分析結果報告書)は、品質を保証するものではなく、参考資料であり、何年か経つと分析機器の進化などにより、同じルビーでも検査結果が変わることがあることを理解しておく必要があります。
価値の高いルビー、要するに天然無処理で美しいルビーであることを保証するのは、あくまでも、購入されるお店です。
鑑別書には「非加熱ルビー」とは書いていないのです。
売っているお店の名前で、品質の保証をしてもらうことが重要です。
すべてのモリスルビーは、天然無処理で美しいミャンマー産ルビーのID番号と品質保証書が添付されます。
ルビーの原産地
最高品質のルビーであるピジョンブラッドを産出するのはミャンマーで、市場でも一番高く評価されています。
同じ宝石種、天然ルビーであっても、産出した場所(結晶した時の環境)によって性質に違いがあり、原産地によって市場の評価も違ってきます。
産地の特徴は大きく分けて下記の3つに分けられ、ルビーとしての評価も、接触変成岩起源が一番高く、続いて広域変成岩起源、そして玄武岩起源の順番です。
- 接触変成岩起源… ミャンマー、アフガニスタン、タジキスタン、ベトナム
- 広域変成岩起源… スリランカ、モザンビーク
- 玄武岩起源… タイランド、インド、カンボジア、マダガスカル、ケニア
ミャンマー産ルビーが一番高く評価される理由は、結晶する時の環境が「接触変成岩起源」であり、ミピジョンブラッドの赤色を決める元素クロム(Cr)を多く含む地質地下40㎞の深いところで結晶したからです。
ミャンマー産ルビーは、365nmの紫外線に対してクロムが反応して鮮赤色にまるで電源を入れたように輝きます。
これはFluorescence(フローレッセンス)と呼ばれる性質で、ピジョンブラッドルビーの条件の一つです。
ルビーの赤色には、クロム(Cr)と鉄(Fe)の割合が関係しますが、鉄分の多い地下20㎞と地殻とクロムの多い地下40㎞では結晶する時の環境が違うということです。
原産地については、宝石種と同じように、鑑別業者へ分析を依頼することができ、専門的な機器を使った分析が可能です。
産地については、専門の宝石研究所、鑑別業者に依頼して分析結果報告書(鑑別書)を取るのが良いでしょう。
産地のトピック
壮大な大自然のドラマがある、地球と生命が生んだ奇跡の宝石「ミャンマー産ルビー」のルビーの母岩は、カルシウム分が主成分の堆積岩が変成した接触変成岩です。
約5億年前にカンブリア紀で生きた甲殻類やサンゴ、貝類などの生命のカルシウムが、現在のインド洋の海底に豊富に堆積していました。
時が流れて、約一億年前に南極を離れて北上したインドが、海底に堆積したカルシウム分(堆積岩)をブルドーザーのように北に押し上げて行きました。
約5000万年前からユーラシア大陸に衝突しました。
インド側のプレートが、カルシウムの堆積岩と一緒に、ユーラシア大陸の下に潜り込むような形で沈んでいきました。
世界最高峰エベレスト山は、このインドとユーラシア大陸の衝突が原因の造山活動です。山となって盛り上がったプレートと地下深くに沈んでいったプレートです。
沈み込んだプレートと一緒に移動したカルシウムの堆積岩がマグマと接触して変成したのがルビーの母岩「接触変成岩」です。
その時、地下40㎞でミャンマー産ルビーが結晶しました。
そして、地下深い場所で結晶したルビーは、沈み側プレートのため、普通であればマントルまで沈み込んで溶けてなくなります。
しかしヒマラヤ山脈の麓の極々一部に特別なエリアがあり、その結晶が地表まで上がってくる場所があります。それがモゴック、ナヤンのルビー鉱山です。
(加熱処理を必要としますが、接触変成岩起源のルビーは、原石はモンスーでも産出します)
カンブリア紀の生命は、海洋生物の進化によって弱肉強食の世界になっていて、海の中の生物はカルシウム分で甲羅をつくることで生き残りをかけた名残り、そのカルシウム分が海底の堆積していたこと。
そして、インドが南極を離れ、南半球から北半球まで1年間に15㎝北上し、その先にはユーラシア大陸があったこと。
そしてクロムが多い地下深くまで沈み側プレートにのって移動して結晶したルビーが、逆行して地表まで上がってきた場所があった。
地球の活動と生命の痕跡が生んだ奇跡の宝石がミャンマー産ルビーです。
フローレッセンスの鮮やかな輝きは、地球と命の象徴です。
「この記事の主な参考書籍・参考サイト」
- 「決定版 宝石」著者:諏訪恭一/発行:世界文化社
- 「図説 鉱物の博物学第2版」著者:松原聡/宮脇律郎/門馬綱一 / 発行:秀和システム
まとめ
この記事ではルビーはアルミニウム?について解説しました。
その美しさの理由を知りたくなった時に鉱物やそれらに関連した知識を学ぶとさらに楽しめることでしょう。
もっとルビーを知りたくなった方へ、ルビーの品質についてはこちらで詳しく解説しています。